アジアの本旅② 台湾・活気づく独立書店たち

台湾の書店は大手の誠品書店だけではない。

零細書店、いわゆる独立書店も盛んである。

実は出版大「国」といえるかもしれない。

誠品書店に魅せられていた自分だが、

2014年2月の台北国際書展(TIBE)の初視察前に

たまたま目にしたのが、ダ・ビンチ同年2月号の台北特集。

台湾の独立書店に焦点を当てた内容だった。

「へー。なんか面白そう」

ダビンチを片手に台北国際書展の視察の合間を縫い、台北市内各地にある独立書店へ訪れた。

 

〈日本では考えられない立地に位置する書店の数々〉

多くは市街地外れの住宅地近隣や、地下1階、街中の裏通りや路地裏にひっそりあるテナント2階にある。

日本ではありえない立地だ。

まず目を引くのが、内外装。書店の看板ロゴはレトロモダン風に洗練されている。

外装もシックで、いわばミニシアターのようだ。読書家の好みのデザインが多い。

内装。多くはカフェ・雑貨販売併設だ。読書会のみならず、映画・美術・演劇・写真などのチラシがずらりと並べてあり、イベントが随時行われるようスペースが確保されている。

書棚は無機質なスチール棚よりも、木製のモノを多く使用している。

ちゃちさを全く感じさせない、文化発信基地にいる実感を与える店舗ばかりだ。

品揃えは新刊から古書など選り取り見取り。だが店舗のコンセプトに沿った書籍に統一されている。

 

〈テーマ性が明確なセレクト書店〉

日本の書店と何が違うのか?

日本の新刊総合書店は大手から零細に至るまで基本はフルライン(ジャンルを万遍なく在庫する意味)。金太郎飴と呼ばれる無個性な書店ばかり。

台湾ではその役どころは誠品や金石堂などの大手に任されている。

例えば1920年代の日本統治時代関係の書籍をメインに置いてある「1920’S」や、

フェミニズム関係中心の「女書店」、美術関係の豪華本ばかり置いてある店舗など、とにかくここでは書ききれないほど。もちろん台北のみならず、郊外の淡水や、台中市、高雄市や東海岸の花蓮や宜蘭などにもある。

その領域はあまりにも豊富過ぎる。

 

〈台湾でなぜ独立書店が輝いて見えるのか?

1.台湾の出版文化を後押しする【文化部】

台湾の文科省【文化部】が台湾カルチャーを後押ししている。

台湾では2010年に『文化創意産業発展法』が制定された。

文化部(日本の文科省に相当)主導の文化的なアプローチで産業を発展させる試みだ。

確かに台湾を訪れた初めの頃は夜市、屋台、鉄道など観光的な側面が強かった。

日本統治時代の建物などをリノベーションした文化的商業施設を見かけるのはそのためだ。

独立書店も新規出店企画が通れば補助金が出るという、公的な後押しがあるのだ。

だから店舗の内外装にもお金をかけることができる。

韓国の韓流カルチャーと同じく、世界に向けた文化発信によってブランド力を高め、経済の発展を促す国家戦略があると考えられる。

2.台湾のサブカル趣味の若者【文青】

台湾の若者の一部に【文青】というサブカルチャー層がいる。「文学青年」の略称だ。

​​​​「自分の世界に生きていること」で「村上春樹が好き」というのが特徴らしい。

文青が出没する場所が台湾の独立書店だ。

世界的に活字離れが叫ばれているが、日本のオタク文化を多大に許容する土壌が台湾には存在する。これらの層が文化を牽引しているのかもしれない。

さらには国民党独裁の時代から【文学キャンプ】という名の青少年向け読書運動がある。思想教育の一環だ。出版の水準の高さはこれらも背景にあるのかもしれない。

台湾という「国」が親日というのはよく知られている話だ。

日本の文化、特にオタクカルチャーも思う存分に吸収している。

ここでは多くを語らないが、台湾版コミックマーケット「FancyFrontier」のように

同人誌即売会の聖地での賑わいは日本に引けを取らないほど。

日本の同人誌ショップ「アニメイト」や「とらのあな」だってある。

ある意味日本以上にオタクシーンは盛り上がっているのかもしれない。

 

〈産業としての出版文化をもはや後押しできない日本〉

「出版不況」。日本の出版業界で常に耳にする言葉だ。実は台湾も例外ではない。

日本の出版市場のピークが1996年で、この年を境に下り坂だが、台湾も2010年を境に出版不況が進行している。それにも関わらず出版文化は常に前向きだ。

何が違うのか?

  • 補助金等、国家が出版文化を後押しする戦略
  • 文学キャンプなど、国民党独裁時代から連なる出版文化を大切にする仕組み
  • 親日国家の影響なのか、オタク文化が台湾社会に根付いている

以上の点が考えられる。

それなりのバックグラウンドがあるのだ。

日本に置き換えると、出版不況の原因や業界構造の問題点を捉えて業界の悪者探しばかり目につく。

台湾のような動きがなぜできないのだろうか?
行動する前に「こんなことやっても無駄」「到底採算が取れない」などネガティブな意見ばかりが先立ち、何一つ変わろうとしない。

衰退の一途をたどるばかりなのに。

……世の中に無駄な文化は何一つ存在しないのだ。

台湾の独立書店は一介の元業界人(取次会社出身)の心を大いに動かした。

日本の業界人も現実を恐れず行動するために、まずはポジティブな台湾の出版文化に触れてみてはいかがだろうか?

 

<出版サービスWille(ヴィレ)代表・豊田 政志>

1967年生まれ。兵庫県姫路市出身、伊丹市在住。
大学卒業後の1991年、関西系取次会社に約20年間在籍。取次会社時代は書店の開業企画部門、近畿圏担当の営業部、商品管理業務を経験。
退職後、充電期間を経て自費出版編集・出版サービスWille(ヴィレ)を開業する。現在、高齢者を対象に実績を積み重ねている。最近では活動範囲を自分史作成業へと広げる。
文芸同人誌即売会・アジアの出版事情などにも熱い視線を向け、関西系出版流通ウォッチャーとしても活動開始。インディーズ出版Wille名義の著書「取次とはなにか〜本のウラ側語ります」「本でつながる台湾〜台湾独立書店出版レポート」がある。