読書履歴 集められた先には(出版研究室から[60])

購買データの高精度分析により、返品抑制や売上改善をめざすとりくみが、大手取次会社を中心に行われようとしている。

DNPでは今年8月から、ICタグを出版物につける実証実験を始める。また、DNPグループの書店向けの流通拠点をトーハン桶川SCRに設置。店頭在庫を把握することで、無駄のない配本ができるという。

大手出版3社と丸紅などが出資した新会社・パブテックスでは、RFIDタグを出版物に付けて管理業務を行うという。DNPは同社にRFIDタグ供給をするサプライヤーだ。

日販系の蔦屋書店で行うのは、同書店全体の購買データとTポイント会員情報を組み合わせた購買データの分析。会員情報を活用することにより、本以外のあらゆる物販購買データも活用でき、より多様な市場ニーズを引き出せるという。分析するのはデータ分析の専門会社・カタリスト。大手版元や日販GHDなどが出資している。

それぞれのとりくみの中身は異なるが、DXを活用して効率的な配本をめざし、返品抑制と利益の拡大をめざす点は同じ。これらはおもに版元・取次側から進められているが、書店はどのように受け止めているのだろうか。知り合いの書店経営者に聞くと、重要性は認識しつつも「取次会社が設定する返品率の目標数値によって、棚の多様性が失われつつある」とも言っていた。

読者にとっては、RFIDタグを本につけることによりその本がいつどこで販売されたのかがわかる。さらに、トレーサビリティを構築するので調べようと思えば、二次流通に乗った出版物の流通経緯も判明するという。近い将来、個々の出版物流通の追跡と個人情報が紐付けされることも十分考えられる。現状では、購買情報から取得した個人情報は、個人を識別できないよう一定の加工をしているという。とはいえ、個人の信条や思想を如実にあらわす読書履歴について、それらをどのように使うのか、今後も注意深く見ていく必要があると思う。

(出版研究室・佐倉エリカ/『出版労連』2022911602号より)