『本の世界をめぐる冒険』(ナカムラクニオ/NHK出版・学びのきほん)

 春の大型連休の或る日、コロナ禍の副産物といっていいだろう、本棚から溢れ出した本の整理にとりかかった。しばらくして、一服タイムに珈琲を飲みながら東京堂書店のブックカバーに巻かれた薄い一冊を手に取った。『本の世界をめぐる冒険』というNHK出版の「学びのきほん」シリーズの一冊だ。多分帯に書かれたあるコピーの「教養としての本の世界史」と「2時間で読める!」この2つを目にしてレジに持っていったのだろう。しかし積読の一冊と化していたこの本の著者は東京荻窪のブックカフェ「6次元』でもあるナカムラクニオさんだ。

 各章の見出しにそそられて珈琲一杯でどこまで読めるかチャレンジしてみたくなった。第1章「改めて、本ってなに?」、第2章「本はどのように進化したのか」、第3章「日本の本クロニクル」、第4章「本の未来をめぐる冒険」という構成だ。

 ナカムラさんは、本書の最後を「未来の『本』を楽しむことができるかは、あなた自身にかかっているのです」と結んでいる。未来の「本」とは? ナカムラさんは、本を「人と情報をつなぐ記録媒体」と定義づけている。なるほど!である。

 さて第1章。「むかしむかし、『本』は人間でした」と、「『本』はもともと『音で聴く』もの」であり、情報伝達の手段は口伝だったことから始まる。「本」という言葉=文字の起源を、日本語、英語、独語、ラテン語などに対応して教えてくれる。これまた、なるほど!である。

 第2章では本の進化を歴史を追って解説してくれる。紙の本がどのようにして進化してきたかを明かしてくれている章だ。パピルス~羊皮紙~紙の進化とグーテンベルグ革命の歴史が現代とどうつながっているかがダイナミックに展開される。

 第3章は、タイトルを見れば一目瞭然の、日本における本の歴史の章である。現存する日本最古の本は『法華義疏』らしい。書店の始まりとその事業の多彩さには驚かされる。「本を売るだけのお店は存在せず」と。「日本の出版文化が花開くのは江戸時代」、<江戸時代は、本の楽園>とナカムラさんは言う。17世紀前半に京都で盛んになった出版は、「京都だけで約800軒もの本屋さんがあった」こそうだ。このくだりで、江戸幕府による「出版取締令」は「戦前におこなわれていた出版物の検閲」に相当することをさりげなく出版の自由の大事さを書き入れている。

 ナカムラさんの考える「本の未来」とはどういうものなんだろう。第4章では、本との出会いにとって大事なのは「場」だと言う。ブックカフェ、読書会、図書館等について話は進む。図書館については「『本』をめぐる『場』で大きな変化が起きている」と世界の図書館を紹介しながら、本の未来を図書館に見るナカムラさんだ。特に<本の未来は北欧にならえ>では、スウェーデン、デンマーク、フィンランドの現実を生き生きと紹介してくれる。「現在の北欧の図書館には、本の未来が詰まっています」と。

 最後の章で図書館について論じている。数年前に公開されたドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」をまた観たくなった。

 (蔦屋本郷)