映画業界と出版業界に通じる課題(出版研究室から[56])

 フリーランスは自らを「産業の申し子」と称している(by出版ネッツ)。70年代後半、「先割り編集」の手法が編み出され、テキストもビジュアルも、活版とは段違いの大量の情報量を同時進行的に誌面に展開していくため、ライター・エディター・カメラマン・校正者ほか多くのフリーランスが輩出されたことによる。21世紀最初期の雑誌の黄金時代まで右肩上がりだった売り上げも予算もマンパワーも、デジタル化やプラットフォーム化を背景としてその後失速していくことになる。

 右肩上がりというのは、現在の安全保障や将来の豊かさといった、実在するのかどうかさえ怪しい目の前のエサを、実在すると信じ込ませて前のめりにさせる構造にほかなるまい。失速によって安全や豊かさといった実利が失われても構造が持続するためには、実体を伴うリアルな経済に置き換わる必要があるが、そうはなっていないのではないか。多くのフリーランスが未だに低廉な報酬に甘んじて不安定な就労を強いられているし、セクハラ、パワハラは後を絶たない。

 出版業界と同様の構造を持つことが明らかになったのが、映画業界であろう。「夢」と裏腹のやりがい搾取による低廉で不安定な収入、性暴力を含むハラスメントの実態が、榊英雄監督による性暴力告発を契機として一気に露呈した。この前近代性を断ち切るために、山内マリコさんら女性作家18人が原作者の立場から映画業界の性暴力撲滅を求めて声明を発出した。出版業界にいる作家たちが映画業界の問題を告発したことは、ふたつの業界が課題において通底していることを物語っている。声明は「このことについての理解と協力を、出版業界にも求めます」と結んでいる。業界としての自浄能力が試されている。

(出版研究室/樋口聡・出版ネッツ/『出版労連』2022年5月1日‐1598号より)