雪だるま式に増える教科書編集の仕事(3)

前回は検定での提出文書の件に関してここ30年に起こったことを説明しましたが、それらの仕事は過密ではありますが(提出文書作成)1か月と(修正表~見本作成)3か月と時期が限定されたものです。1点の教科書に関する仕事量全体を考えると、教科書編集者の負担を大きく増やしている主因は、やはり年々種類が増え内容が複雑化する「教師用指導書」(以下指導書)の作業でしょう。

1970年代頃まで、指導書は基本的に教科書1点に対して1点が普通でした。指導書は教科書内容の説明や編集委員(著者)の執筆意図などを掲載したもので、教科書を使った指導方法は教師が考え、補充資料・プリントなどの教材も教師自身が自主的に用意することが当然と考えられていたからです。しかし教員への時間的・社会的な制約が増し授業の自主編成が難しくなってきた80年代になると、徐々に様相が変わってきます。まず小学校から(そして中学にも)、教科書の指導法を教科書と同じ紙面の中に小さな色文字で印刷した指導法の解説、いわゆる「赤本」がつくようになってきます。さらに実際の授業実践例を掲載した指導事例集や提示資料集が加わるようになり、90年代になるとテープ・FD・CDといった音声や文字データも加わるようになりました。2005年には電子黒板を使う「指導用デジタル教科書」が登場して2010年代には小中学校では一般化しました。教科や会社によって差はあるものの、指導書の種類の増加と内容の多様化・複雑化の傾向はとめどなく進行しているといえます。

現状はどこまでいっているか、現在の光村図書出版小学国語の指導書のラインナップを見てみると、①「小学校国語 学習指導書 総説編」(全学年共通、年間指導計画作成などのための資料)、②「小学校国語 学習指導書」(各学年1冊、CD・CD-ROM付、授業指導用、音読・朗読などの声データ、ふりがな付紙面データなど)、③「こくご(国語) 学習指導書別冊(朱書編)」(学年上下巻ごとに1冊、「赤本」)④「小学国語 授業に役立つワークシート集」(各学年1冊、②・③で示した授業展開に即したワークシート集)、⑤「小学校国語 指導事例集」(各学年1冊、発展的な授業展開例)、⑥「『話すこと・聞くこと』『聞くこと』の授業をつくる」(全学年共通、個別的・専門的な指導法・内容の解説及び授業展開、以下同じ)、⑦「『読むこと』の授業をつくる」、⑧「言語・漢字指導の方法 確かな定着と活用のために」、⑨「語彙に注目した授業をつくる(CD-ROM付)」、➉「単元づくりに役立つ『言語活動』アイデア事典」、⑪「デジタル教科書・ICTを活用した授業をつくる 情報・メディアの視点から」、⑫「『情報の扱い方』の授業をつくる 思考力と情報活用力を育てるために」となります(注:「指導用デジタル教科書」は「教材」として別売になっているが指導書としている会社もある)。⑥以下は教科書に即していないので他社にはない内容もありますが、それ以外は分冊・合本などの差はあってもどの社も基本的に用意している内容です。40年ほど前までは教科書解説の1点程度だったものが、これだけの内容になっているのです。

さらに今話題の「デジタル教科書」は、単なる教科書紙面データだけがある訳ではなく、それと関連づける図版・写真・動画やネット上の内容など新たなコンテンツが付属するものになります。いわば最初から指導書や資料集がついた教科書と言えるでしょう。それらの製作の多くは実際には外部の業者がおこなっていると考えられますが、全体の統括・進行は編集者の仕事となります。従来の「紙」の仕事に加えてこれらの作業が新たな労働強化の原因となっているのです。

*詳しい内容については、光村図書出版のHPから、「令和2年度版 小学校指導書・指導用教材のご案内 小学校 国語」を参照。