「『本の物流王』じり貧の出版で生き残る秘密の全容」(『週刊東洋経済Plus』2021年11月10付より)

ちょっと待った! 個人情報の扱い(CCCデータの利活用)は慎重に考えるべきではないか!?

 「出版の危機」この言葉は、過去、何度も使われてきた。直近のそれは出版流通の崩壊的危機のことを指している。本質的な解決の道筋が見えないなか、出版関連業界および運送業界が協力し合い、探り、試し、チャレンジ的実践がなされている。

そんななか、『週刊東洋経済Plus』(11月10日オンライン記事)の「『本の物流王』じり貧の出版で生き残る秘密の全容」という日販の奥村景二社長が「直撃」インタビューに答えている記事が目にとまった。「出版流通の危機」について語っているのだろうと期待して読み始めた。

ところが、そのなかで個人情報の取り扱いにかんする発言㋐と、取次の「書店を大切に」という理念とは矛盾する発言㋑には驚いた。

筆者は、前者㋐発言は看過できない問題だと考える。「精緻なマーケット分析は未着手」という小見出しのところで、記者が「日販グループがカタリスト(=CCC)と手を組んだ決め手は?」という質問を発している。これにたいして奥村氏は「TSUTAYAのデータの素晴らしい点は、顧客データであること。顧客のIDに紐づいて、『どこで』『誰が』『何と一緒に』買ったのかを把握できる。(中略)加盟店のスーパーマーケットで買い物をした後、TSUTAYAで何を買ったかもわかる。それは出版社(中略)にとっても有用なデータのはずだ」と答えている。

出版流通の危機からの脱却を構想するさい、返品率の高さからその原因を探っていき打開の方向性をマーケティングの視点から「プロダクトアウト型からマーケットイン型へ」という考えに立つことは理解できる。しかし、そのためには何が売れるか、読者は何を欲しているかを、個人情報の問題やプライバシーの問題など指摘されているビッグデータに活路を見出すというのはいかがなものか。

現在、政府与党はマイナンバーカードの普及に必死である。税金を使ってのキャンペーンをこれでもかこれでもかとやっているが、未だカード普及率は39.5%(11月16日時点)である。利便性を押しだしているが、国民はあらゆるものが紐づけされることへの警戒心ゆえに取得しない現状は否定できない事実である。

憲法の精神とは相容れない、とりわけ基本的人権に抵触するような個人情報のビジネス化を商売の手段とすることを是とし、そのことが「頭のよさ」であるかのような発言は受容しがたい。こうした発想は、「出版流通の危機」打開を模索するなかで生みだされた「ネオ・出版の危機」とは考えすぎか。

後者㋑についても一言述べておこう。「自社の利益を確保しつつも改革を進め、出版社と書店のために出版流通をよりよい形に変えていきたい」と述べたあとで、「(取次が扱う)出版物の卸先も書店に限らず、ドラッグストアや生活雑貨店などへ開拓していくも考える」と明らかに矛盾することを展開している。