さる4月22日、「教科書のデジタル化・価格適正化」のための出版労連国会行動が行われました。今日本の教育は、政府のIT化推進の動きによって大きく変えられようとしています。その象徴が「デジタル教科書」ですが、それは教科書会社に従来なかったような規模の新たな投資を強いているだけでなく、ただでさえ複雑で面倒な教科書編集の仕事をますます増加させています。しかし教科書編集に係わる業務の増大は、何も近年のデジタル化のためだけではありません。1990年頃を境にここ30年の間で、教科書編集の仕事は徐々に増えてきたのです。
それではまず教科書編集の仕事とは何でしょう?教科書という「本」を作ることは当然ですが、それと同じくらい重大な仕事があります。「検定」? 確かにそのとおりですが、「検定」というと普通は文部科学省の「暗い」部屋で教科書調査官と文章表現や写真・資料等の擦り合わせをする、というような仕事を思い浮かべる人が多いと思います。しかしそれは「検定」の一部でしかありません。「検定」とは、一言でいってしまえば文科省というお役所相手の「許認可手続き」なのです。かつて普通の書籍の編集をしてきた友人が教科書に移動になった際に、「本の編集をしているのか、文科省宛の書類を作っているのかわからない」とぼやいていましたが、文科省を相手とした膨大な文書の提出作業こそ、教科書編集のもう一つの大きな仕事なのです。そのために提出する文書(近年では電子データも)がこの30年で次々と増えてきたのです。
さらに編集者の仕事は、教科書作成に関することだけではありません。先生方向けの「指導書」の作業があります。特に学校数の多い(つまり部数の多い)小中学校では、その売り上げは教科書に劣らず重要なものです。それもあってこの「指導書」、かつては内容解説書程度だったものが、指導方法の解説、授業実践例、指導用資料、視聴覚教材、テスト類と次々と増えていき、現在の小中学校では電子黒板で使う「指導用デジタル教科書」も必須のものとなりました。これらの作成も業務量増大の大きな割合を占めています。
また教科書は、一般の本のように「完本したら取次に委託」というものではありません。地域や学校単位による「採択」の過程があります。その営業活動のための宣伝媒体物(パンフ等の紙だけでなく電子媒体やネット経由のものも増えてきました)作成のための作業も必要です。さらに程度の差はありますが直接的な宣伝活動の手伝いもします。このような仕事も様々な理由から近年増加の一途をたどっています。
それでは次回からは、検定での提出文書、指導書の多様化・複雑化、宣伝媒体物の増大(と営業への規制強化)という点から、増え続ける教科書編集の仕事を具体的に見ていきましょう。
板垣尚英(元出版労連教科書共闘会議事務局長・現実教出版労働組合)