浅井澄子『書籍市場の経済分析』の紹介 その5  新 村 恭

「第3章 市場規模と新刊書の発行」に入る。新刊書の発行、販売部数が主なテーマである。

一般に、販売額のピークは1996年とされている。しかし、著者は「書籍の販売部数は名目の販売額のピークよりも8年早い1988年が最大であり」、額も消費者物価指数で実質化すると1989年がピーク、「書籍市場は、インターネット普及以前の1980年代後半に縮小に転じていた」とする。

この章では、書籍市場の構造変化の有無と要因、そして市場規模が縮小するなかで、なぜ新刊書の点数が増加したのかが探られる。要因として「書籍価格、可処分所得、新刊点数、人口動態、インターネットの進展、社会生活の変化、公共図書館の活動、新古書店の普及」があげられ、分析される。

  難しい数式があげられるが、結論は明快である。ピーク1988年の「数年前から販売部数の対前年伸び率は鈍化しており、ピークに達する以前に構造変化が起きていた」、インターネットの普及は1990年代後半であるから、「インターネットが、紙媒体書籍の構造変化の引き金になったとはいえない」とする。また、日本の電子書籍はコミック中心に偏していることもあり、「電子書籍が紙媒体の市場全体に与える影響は小さい」としている。いうまでもなく、本書は雑誌を対象としていない。

さて、著者は、市場が縮小しているのに部数が増えつづけた要因は、「書籍特有の流通システム〔送品すれば売上の有無にかかわらず入金される〕によるものか、新刊書の販売不振を新刊点数の増加で補う多品種生産によるものか、既刊書の販売不振に伴う新刊書依存によるものか」の3点に帰着させる。

その分析では、さまざまな係数が登場し図表が示され、特に「インパルス反応関数」が重要視されるが、評者には分からない。が、結論は比較的明確である。

1996年から2009年までの前期では、数値から、3点の要因すべてがあてはまるとし、部数が減少に転じた2010年から2015年の後期では、「いずれも当てはまるとは言えない結果となった」とする。

しかし、後期は減少に転じたとはいえ、多数の新刊書が刊行されており、企画の吟味と積極的な販売活動が行われているとし、大きな特徴として「新刊書1点当たりの販売部数の増加が続く期間が大幅に縮小しており、最近の新刊書の販売は短期間に終了し、あたかも月刊誌の販売形態に近づいている〔下線評者〕」としているのが印象的である。

「小括」では、但し書き的に、経営困難な出版社だけのデータは取得できないという制約があることや、今後、コミック以外にも電子書籍が進展していく場合は、分析に変更が必要になることが述べられている。

示唆に富む内容であるが、評者としては、部数、売上高の変遷は分かるものの、書籍市場の構造変化の内容、要因が必ずしも明確でない印象を持つ。これは私たち出版人の課題であろうか。

次回は、価格関連と図書館との関係の部分について、まとめて紹介する予定である。

(しんむら やすし、出版労連京都地協)