『週刊金曜日』が絵本を特集! (『週刊金曜日』2021 12.24/2022 1.7合併号 1359号)

2021年末、2回目のコロナ禍寝正月用の本を購入しようと本屋を歩いていたとき『週刊金曜日』(以下、『金曜日』)が目にとまった。「ん?ナンダ? あの『金曜日』が絵本?」。

絵本は巣ごもり需要でよく売れたジャンルではあった。しかし、『金曜日』がそんなことで特集を組むはずはないだろうなぁ、と訝ってページをめくった。特集が始まる中扉に「普遍的」という言葉が出てくる。わかったようなわからないような…。

読み進むうちに次第に謎が解けていく。落合恵子さん㊟1は「絵本は年齢からも、セクシュアリティからも、言語からも自由なもの」と語っている。それは落合さんの自問「絵本は誰のもの?どの年代のもの?」への答えでもあるようだ。さらに絵本の力について次のように語っている。「目的は、その本を楽しむこと、それじたいです」と言いながら「が」と続けて「子どもは時代に豊かな人権意識を身につける」ことが大事だと。そのお手伝いとしてクレヨンハウスを運営しているのだとも。

土井章史さん㊟2は子どもにとって絵本とは?という問いに答えるなかで「子どもとスキンシップをとることが大事」「子どもには肌感覚として帰る場所をしっかりと与えることが大切」と語っている。そんな土井さんの言葉で気になったのは「絵本は『教育のためのツールではない』」という一言である。昨今、親が子どもに絵本を買い与えるとき、「自分の子どもの役に立つかどうか」という基準が前面に出ていやしないか。親=おとなの価値観で絵本選びがなされているのではないか、子どもの価値観を認める頭の回し方をしているのだろうかと思ってしまうのは考えすぎ?!

どい・かやさん㊟3は、「他の動物たちに迷惑をかけ続けている私たち」だが「私たち自身も生きていけない世界になるに違いない(中略)どんなふうに生きたらいいんだろう?絵本作りを通してずっと自分に問いかけてきた」と。そして「絵本が大切な人同士のコミュニケーションにお役に立てたら」と語っている。

浦安市立中央図書館の高橋泰代さん㊟4は「絵本は子どもの心と言葉を育てます(中略)想像力を育むのは、生きる力を育てることにつながる」と語り、さらに読み聞かせによるコミュニケーション手段の魅力という点にも触れている。

最後に、この特集を企画された伊田浩之の言葉をいくつか紹介しておこう。伊田さんは、先述の浦安市立図書館の高橋さんへの取材を経て「資料購入費や人件費がしっかりと組まれているのは(中略)市民の理解と支持があるから」と言い「図書館サービスが充実していると、さらに豊かにさらに深く絵本を楽しめる」と結んでいる。「さらに」を重ねるところにこの特集にかけた深さを感じる。年明けに伊田さんに筆者の問題意識「『金曜日』で絵本の特集をする狙い・目的は?」と直接ぶつけたところ、次の言葉が返ってきた。「絵本が持つ普遍性。コロナ禍で普遍的な価値が見直されているのではないかと感じた」。また「現状の日本社会の劣化を立て直す力は文化面にこそあるのではないか。遠回りでも、絵本に親しむことがこの国を立て直す一助になって欲しいと考えるから」と。

編集部の岩本太郎さんは本誌で「すべての世代に読まれる絵本にこそ新たな出版の可能性が秘められている」と述べている。本誌はバックナンバーを入手できる。出版関係者にはぜひとも手に取っていただきと思う。

㊟1落合恵子さん…作家。「クレヨンハウス」主宰

㊟2土井章史さん…編集者。絵本古書店「トムズボックス」店長

㊟3どい・かやさん…絵本作家。『チリとチリリ』シリーズ

㊟4高橋泰代さん…浦安市立中央図書館自動サービス係長