閉まる書店と〝コロナ後〟の光景(出版研究室から[32])

コロナ禍で本の売り上げが伸びている。ドリルに児童書、そして一般書も。絵本の4月の売り上げは昨年同期の約4倍。休校の影響は大だ。電子図書館サービスの貸し出し実績も255%(TRC調べ)を記録したほか、電子コミックの期間限定無料開放に各社参入で新規ユーザー急増と、読書の概念すら塗り替えかねない事態も進行中である。

読者に足りないのは他ならぬ「読む時間」だったということが明らかになりつつあるというのに、少なくない書店が休業や時短営業に移行。モールやショッピングセンターもろとも休業期間に入った店もあり、二大取次の取引店は800店が休業。一方で、7,000店の書店が自粛に追い込まれているという未確認情報もある。書店は自粛要請の対象ではなく、協力金の給付もない。開け閉めも日々の現場判断で、実態がつかめない現状がある。書店が休業では初速が勢いづかないと、発売延期になった新刊も多い。刷り上がった本は、いつになったら日の目を見るのだろうか。

リアル書店が休業となると、当然のことながら読者はネット書店に流れるが、アマゾンが在庫を生活必需品にシフトしたことを受けて、版元にとっては売り逃がしともいうべき事態が起こっている。コロナ特需の恩恵も中小には浸透していない。やむなく休業、それによる売り逃がしという事態で、5月危機説が現実のものとなりつつある。誰の危機か。言うまでもなく書店と中小版元である。

住宅街を走る宅配業者やUber Eatsの自転車が急増という光景は現実のものとなった。パンク寸前の物流と、一軒配達して200円のオンラインデリバリーが支える自粛と在宅。ここでも非正規労働者が感染リスクの防波堤になっていることを感じる。収束の兆しはまだ見えないが、その時に私たちが見る光景が以前と違うことだけは確実である。

(出版研究室担当中央執行委員・樋口聡/『出版労連』2020年5月1日‐1574号より)