「新たな日常」の陰に(出版研究室から[33])

5月25日の夜に行われた緊急事態宣言全面解除の記者会見で安倍首相は、「感染防止を徹底しながら、同時に社会経済活動を回復させていく」という「新たな日常」のために必要だとして、「接触確認アプリ」の6月中旬導入を示した。

このアプリは、スマホのブルートゥースを使い、接触者を検知し記録することで、一方が感染した場合には、その情報がもう一方にも届くというものだ。アプリをスマホにインストール「する」「しない」の選択は個人の自由だが、求められるプライバシーなどの同意事項が多いそうなので、アプリに対する十分な理解が必要だ。

そして「接触確認アプリ」と言いながら、これが「監視システム」であるという自覚も重要だ。感染症対策を、プライバシーに入り込むようなシステムを用いて行うのならば、運用者に対する、厳しいチェックが必要である。それは、高い透明性と行政から完全に独立した第三者性を持つ組織によらねばならない。

この問題について、個人情報保護委員会は5月1日に「考え方」を示し、アプリの透明性の確保や安全管理措置の実施などで、利用者の信頼を得ることが必要不可欠であることや、個人情報に当たらない情報でも他の情報との関係で個人情報になる可能性のあるものもあるので、適切な運用が必要であると述べている。

また、NPO法人情報公開クリアリングハウスと、MICなどが連名で、政府に対して「新型コロナ感染・接触者追跡アプリ導入についての要望」を5月14日に提出している(http://www.mediasoken.org/)。

「新たな日常」の陰に「新たな監視社会」が潜むようなことがないように、出版労連が、そして出版労連に結集する我々一人ひとりが、行政を監視する立場に立って、現状を見つめる必要があるのではないだろうか。(詳細は出版研究室HPで)

(出版研究室・前田能成/『出版労連』2020年6月1日‐1575号より)