TPP11の発効と同時に施行された著作権法の「改正」点は次のようになっている。
(1)著作物等保護期間の延長
(2)著作権等の侵害罪の一部非親告罪化
(3)アクセスコントロールの回避等に関する措置
(4)配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与
(5)損害賠償に関する規定の見直し
ご存じのように、著作権法は毎年のように改正が行われている。海賊版サイトへのブロッキング法制化は見送られたが、利用者への規制を強化する著作権法改正を目指す動きは続いている。出版産業で働く私たちにとって著作権法は最も身近で重要な法律である。だから、著作権法の改正内容を理解することが重要だ。だがそれでも著作権侵害の有無を判断するのが難しいケースは起こり得る。実際に、著作権侵害を巡る法廷での係争は絶えず起こっている。
では、このような状況のもとでの著作権侵害の非親告罪化から、どのような懸念が生まれるのだろうか。今回の改正では3つの要件を示し、その全てに該当する場合に非親告罪として著作権者の告訴がなくても公訴できるとしている。その要件は主に海賊版の販売やネット配信を想定しているようである。
しかし、要件を充たしているかどうかは捜査しなければ分からない。恣意的な公訴と捜査がセットになったとしたら、共謀罪法に対する懸念と同様に、著作権法も使い方次第で、出版メディアの「表現の自由」を規制するための道具と成り得る。
そもそも、今回の法改正がTPP11との関連で行われたことを忘れてはならない。経済行為の結果が、私たちの権利を制限することについて、真剣に考える必要がある。
(出版研究室主任研究員・前田能成)〔『出版労連』1560号/2019年3月1日より〕