街頭に監視カメラが増え、ウェブ上には個人の様々な画像や映像が溢れている。SuicaやPASMOには個人の移動情報が記録され、それがモバイルと連携することで、プライバシーの拡散に拍車をかけている。いや、拡散ではなく個人情報の一極集中の危険性さえ懸念される事態だ。
その懸念は、特定秘密保護法や共謀罪法の制定で現実味を帯び始めている。
今年5月にGDPR(EUの一般データ保護規制)が施行された。そして、7月には日本とEUとの間でEPA(経済連携協定)の署名が行われた。また、日本の個人情報保護委員会と欧州委員会との間で進められていたGDPRに基づく個人データ移転については、9月5日、欧州委員会が日本に対する「十分性認定」手続きを開始することを閣議決定した。この合意を前提に、個人情報保護委員会は8月24日、「個人情報の保護に関する法律に係るEU域内から十分性認定による移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」を公表した。
一方、総務省と経産省は今年5月、「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0(案)」のパブリックコメントを実施した。これは情報銀行(情報利用信用銀行)という、個人データを第三者(事業者)に提供することで何らかの利益を得る仕組みを作ろうとする流れの中で行われたものだ。情報銀行とは、「金銭の替わりに個人情報を扱う銀行」と考えると分かりやすいだろう。その後、6月に両省から正式な指針が発表された。
今、個人情報を巡る動きが目まぐるしい。監視社会は、プライバシーを覗き、個人情報を握ることで成り立っていく。そこに切り込んでいくのはメディアの、そして出版の使命であると考えたい。
(出版研究室主任研究員・前田能成)〔『出版労連』1555号/2018年10月1日より〕