第4章は「公共図書館の貸出の書籍販売への影響」である。
公共図書館の貸出冊数は増加傾向で、「2010年以降では貸出冊数が書籍の販売部数を上回るようになった。このような状況を背景に、一部出版社や著者は、公共図書館による新刊書の貸出が書籍販売に悪影響を与えているとして、新刊書の貸出開始に一定の猶予期間を設けることを要請した」。
この問題についても、係数・関数の計算と図表が提示されていくが、結論は明快である。「集計データで分析する限り、公共図書館の貸出が、書籍販売に明確な負の影響を与えていることは見いだせなかった。」
「第5章 書籍の需要と価格の決定要因」「第6章 書籍価格の日米比較」は、いずれも市場のなかでの価格決定の合理性についての検討であり、価格拘束=再販制の是非と相通じる問題である。
第5章で分析の対象とされるのは、一つは単行本と文庫をあわせたフィクション、もう一つは研究者が書くことの多い、学術啓蒙書ともいうべき新書、岩波新書と中公新書である。後者については、ノンフィクションやライトノベル、実用書は除かれる。
価格の決定要因については、世界的な研究の内容、関数の設定のしかた、数式を検討した上で、フィクションの分析に入る。第5章は最も長い章で、考察は細かいが、ここでも結論のみを紹介する。「単行本が既に発行されている作品の文庫本の費用は、単行本なしで文庫本を制作するよりも低くなり、これが低水準の価格設定を可能とする」とし、その結果、需要にたいして価格弾力性が保持されていると評価されている。
新書については、歴史書が多いので別枠でくくり、自然科学書も分け、書評数や大学図書館所蔵冊数などを要素として加味して分析される。結論は、価格の弾力性について、「新書に関しては、すべてのタイトルで非弾力的であった」である。
この章のなかでも、「消費者のニーズと需要の価格弾力性を考えると、部分再版や時限再販の範囲の拡張」が要検討と付言されている。
第6章では、まず米国の価格設定の状況、拘束のない割引の様相について明らかにされる。「大手書店は、一般に出版社と直接取引し、書籍を買い取ったうえで小売価格を設定する。」米国Amazonは発売前から予約を受け付け、書籍1点ごとに価格を設定し、割引を行っている。そのなかで、2016年5月5日と9月5日、2017年5月5日の価格調査で、20タイトルについてその変動が表にされている。発売前の予約段階からを含め、早い時期に版元希望価格の大幅な割引が設定されているものが多い。一方で、ハードカバーの専門書4点は価格引き下げがない。
第6章の後半は、米国で発行された洋書と、それを日本語に翻訳した書籍を対象とした、日米の価格設定の比較で、フィクション等いくつかのジャンルに分けてタイトルを選んで分析される。しかし、グローバルに開かれた英語の本と日本の読者のための翻訳本、価格拘束が無い米国と有る日本、部数が増えるほど率が上がることが多い翻訳権料などを考えると、評者には値付けの比較自体が難しいと思われる。
「第7章 専門書の発行と大学図書館」「第8章 書籍の購入パターン」は省略する。第8章では、映画化と文学賞等の受賞により、売上が跳ね上がること等が分析されている。次回は、「結章」の紹介と評者の考えを記して最終とする。
(しんむら やすし、出版労連京都地協)