昨年一年を振り返ることは簡単だった。世相は一色であり、産業も働き方も、ものみなすべてがコロナ禍というシングルイシューで片付いた。おうち時間拡大で出版産業に追い風が吹いたという。かの鬼滅現象ですら、コロナでなかったらここまでの盛り上がりを見たかどうか。それ以外にも、選択肢がない中で一定の紙媒体回帰が起こったことは想像に難くない。もちろん著作に魅力がなければそうはならなかったが、コロナ禍は拍車をかける装置となった。
一方で、2021年の出版産業を予想するのは難しすぎる。年末年始をはさんで一向に衰える気配のないコロナ禍自体がいつ収束するか見当もつかないし、この一年で力をつけたとは思えない出版産業がアフターコロナを切り拓けるのかどうかも不透明である。
読書界を流れていくのは書店減少が続き、刺激と情報のメディアはWebやアプリに媒体転換していくという定性的な予想だ。GAFAは日本でも当局との対峙を引き起こすであろうし、電子書籍にサブスクリプションが浸透していき、デジタル教科書は台風の目となっていくのか。
その結果、所有する価値のある書籍以外は、読者はデータで保有する傾向は進み、紙媒体の衰退と電子媒体の伸長は続き、編集者の再定義はいっそう進むだろう。だが追い風はコロナ禍でも投資を中断しなかった大手に吹いたのであり、中小零細版元との格差もまた一層拡大していく。全体として持ちこたえている零細版元は“オリンピックイヤー”を乗り越えられるのか。
そんな中、出版研究集会の全体会と5分科会がオンラインで公開中(1月5日〜2月11日)である。真に2021年を占う、新しい学びと気づきを得られるものと思うので、ぜひアクセスを。
(出版研究室担当中執・樋口聡/『出版労連』2021年1月1日‐1582号より)