本は「不要不急」のものか

パンデミック下の書店と教室 考える場所のために』(小笠原博毅、福嶋聡/新泉社)

ジュンク堂書店難波店店長の福嶋聡氏は、「2020年出版研究集会 in 関西」(オンライン集会)にパネリストとして参加され、以下の経験を話された。コロナ禍の緊急事態宣言下に悩んだ末に書店を開けたところ、ソーシャルディスタンスをとってレジに並んだお客さんの列が、店内を半周して220メートルくらいまで伸びたという。さらに本文中には、阪神淡路大震災のときにようやく再開できた神戸の書店に多くのお客さんが詰めかけたというエピソードとともに、福嶋氏が感じた「本も、ライフラインだった!」という印象的な言葉がある。果たして、本は「不要不急」のものなのだろうか。
一方、神戸大学大学院教授の小笠原博毅氏は、オンライン授業が進むなかで、「考える場所」としての教室、そして書店の可能性について(危うさについても触れながら)言及している。ジュンク堂書店難波店では、店長の福嶋氏が「席亭」として企画した本の著書を招いたトークイベントが定期的に開催されている。そこは、まさに本を通して著者と読者が出会ってともに考える場所だ。
この本の締めくくりは、福嶋氏による「〈未来の自分〉と読書」という文章である。書店数が二十一世紀初頭の三分の二に減少したなかで、福嶋氏は「目指すべき〈未来の自分〉に出会える場所」として、書店に、そして本に希望を見出だしている。
年が改まっても、新型コロナウイルス感染症による影響は大きく、いまだ先行きが見えない、そんな時代だからこそ、「どんな本でも『不要不急』のものとは思えない」という福嶋氏の言葉が、ずしりと重く響く。
(S.ハルカ)