全国の警察で「顔認証システム」が運用されている。テレビの刑事ドラマで防犯カメラの分析シーンが時々出る。観ているとわかるように「防犯」というよりも「監視」である。しかし、実際の運用などは明らかにされていない。
9月13日付けで「信濃毎日新聞」の取材記事として、全国の警察で今年の3月から犯行現場の防犯カメラや事件に関するSNSの顔画像を過去に逮捕した容疑者のデータベースと照合する「顔認証システム」を運用していることが明らかにされた。このシステムは顔の特徴が類似している人物の氏名や犯罪歴を即座に出せるので、すでに捜査に活用されていると報じている。その一方でプライバシーの侵害を危惧していた。「信濃毎日新聞」は3日後の9月16日付けの社説で取り上げた。社説の見出しは「捜査に顔認証 監視の強化を招く危うさ」。膨大な顔画像のデータから個人を特定して、行動を追跡、監視できるシステムについて、警察の運用次第で犯罪捜査を理由にした市民のプライバシーや人権侵害がおきる可能性を危惧している。また、運用を警察の裁量に委ねていては権限の乱用も起こりうると指摘している。同時に、「運用システムの手続きを明確にしてその実態を点検する仕組みが必要」だと書いている。
この問題を日本共産党の藤野保史衆議院議員が検察庁に問い合わせた結果、検察庁は3月から全国的に運用していることがわかった「しんぶん赤旗」(10月11日付)。9月の「信濃毎日新聞」の記事を裏付けたものである。
現在のIT技術を駆使すれば、街中の防犯カメラのデータを集めて容疑者の特定をために役立つと思われる。しかし、このシステムは一般市民も含めた特定の個人を監視、追尾することが可能である。「信濃毎日新聞」の社説では「犯罪捜査に限定する」と警察庁の説明を紹介しているが、運用の実態は不明で検証は難しい。「しんぶん赤旗」には、警察庁のコメントとして「全都道府県警察に配備しているが、場所等詳細な回答は差し控える」と書かれている。
市民に対する監視については共謀罪との関係も気になる。共謀罪では通信傍受が問題になった。通信やネット、スマホの普及であらゆる個人情報が溢れているが、それだけにプライバシーの保護が必要であり、安全性も保障されなければならない。しかし、結果的に共謀罪が制定され、予防拘禁を可能にするなど警察の権限が拡大した。市民社会とプライバシーに関する一連の経過を見れば、今回警察庁が明らかにした監視カメラの活用をそのまま見過ごすことはできない。警察の「顔認証システム」の活用は憲法に保障された人権、思想、表現などの自由にもとづく市民社会との関係から引き続き注視すべき問題といえる。