ブルータス、お前もか よくやった!

最近Webメディアで、出版界や本を紹介する記事を目にすることが多い気がする。気のせいだろうか?12月16日には、「TikTokが『#本の紹介』を開催」という記事を目にした。

どっこい、紙も負けていない。雑誌は、コロナ禍でいっそう刊行し続けることが難しくなっている。時代を映し社会とともに成長し続けてきた雑誌の休刊が続いているなか、頑張っている。今年の夏、『サライ』が「読書三昧の夏」という特集を組んだのは記憶に新しい(2020年7月21日の本コラム参照)。この冬、これまでたびたび「本」に関して特集を組んできた『BRUTUS』が、創刊40周年の今年の最後に「世の中が変わるときに読む本。」と投げかけてくれた。

「すべては、本から始まる」と、やや大上段に構えたところが頼もしい。『BRUTUS』劇場の始まりだ。それにしても読みでのある雑誌である。ページ数の多さ(一冊に占める割合も半端ない!)もさることながら、文字の多さ、そして小ささにはやや往生する。

period01では、哲学や経済学を研究している斎藤幸平氏が、「豊かになるために資本主義を脱する」と題して幾冊かの本を4ページにわたって紹介している。柔らかいが鋭い言葉で、社会科学的に現代社会の抱える問題を撃ち、「世の中が変わるときに読む本。」として10冊を取り上げている。
最初に取り上げている本は、自著の『人新世の「資本論」』。これは「グローバル資本主義は経済を加速させる一方で環境負荷を高め、気候変動やコロナ禍などの文明危機を招いてい」るとし、「マルクスの『資本論』を足がかりに資本主義社会を脱して脱成長主義社会へと進んでいく可能性を考えた」内容になっているという。「新たな社会像としての『脱成長コミュニズム』という考え方を提唱してい」る。

period02では、作家の多和田葉子氏が「国、民族、言語、世界とどうつながるのか。」というテーマで書いた物語、『星に仄めかされて』というヨーロッパを旅する本が紹介されている。この小説を読みたくなるのは、多和田氏の言葉だ。日本のコロナ禍の現状を見て、「この国特有の自粛マインドや同調圧力が抑制に一役買っているのは間違いない。その反面、この集団主義は誰もが周囲の意見に流されがちで、間違った方向に進んでいても止まれない危険性をはらむ」と。
多和田氏は、「国、民族、言語を超えた先にあるもの」を考える本として、自著以外に3冊を紹介している。いずれも興味深い本である。

period03は、「SFの現在地を探る、編集者座談会」として、早川書房、東京創元社、竹書房の3社の編集者が一堂に会しての誌上座談会である。読み応えのあるトーク満載である。

最後に、筆者が愛してやまない翻訳家の訳で出版されている『十二月の十日』が紹介されている。Period07の「文学は21世紀アメリカをどう描いたか。」でアメリカ文学研究者の吉田恭子氏が取り上げている。「『全米を泣かす』センチメンタリズムを最強の岸本訳で」とあれば読まざるを得ない。

Periodは18まで続く。是非手に取って格闘していただきたい雑誌である。ブルータス、よくやった!(本郷カエサル)