「緊急事態」にひそむ危険(出版研究室から[31])

新型コロナウイルスの感染が、全世界に広まる中、2020年3月21日付発行の「図書新聞」の広告に目を引かれた。出版社・共和国が出稿した「緊急事態宣言」を含む法改正について断固反対する内容である。「『緊急事態』なのはかれらではなくこちら側だ。悪辣な安倍晋三内閣およびそれに追従する与野党は、いますく国政から退場せよ」との強いメッセージが並ぶ。

3月13日、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が国会で成立した。明確な治療法がなく、感染経路が不明瞭であるウイルスの蔓延をいかに阻止するか、なんらかの対策は急務だ。しかし、基本的人権や国民の権利や自由を、必要以上に制限することに大きな不安を覚える。

この法改正に関して、MICを含む複数の団体から相次いで抗議声明がだされた。昨年12月末に「未知の新型肺炎の発生」が中国政府により明らかにされたにもかかわらず、今年1~2月時点で、明確な対策を打ち出さなかった日本政府。全国の小中学校に対する休校の指示で、急所対応に追われる親や教師たち。それら場当たり的な対応が、かえってデメリットとなるケースを熟考したのか疑問である。

フランス、イタリアなど欧州ではすでに、外出禁止が発令されている。中国では、当局が運営するアプリによる体調管理がなされ、場合によっては行動の制限もされるという。

同法により、首相の「緊急事態宣言」が出されれば、私的な施設まで、使用制限される。これは、2004年に制定された、武力攻撃などから国民を保護するという名目で作られた「国民保護法」と、一部の内容が重なる。「感染拡大の阻止」という大義名分で、制限を受ける側が唯々諾々と従うことに、危険を感じる。

出版を含む各ジャーナリズムが、必要な情報を正確かつ的確に報道し、非常時にこそ権力の監視が重要であるのは言うまでもない。

(出版研究室・佐倉エリカ/『出版労連』2020年4月1日‐1573号より)