「日本経済新聞」(12月10日有料会員限定版)‐「記者の目―電子出版取次メディアドゥ、2000社集める高資金効率」から

出版関連業の2021年は2020年から続いた巣ごもり需要で、跛行的とはいえ販売は好調で売上げを伸ばした会社が多かった。「多かった」と書いたのは、夏前後から数字は下降線をたどり始めたからだ。コロナ禍で、現象的にはいろいろなものが消え変化したいっぽうで、新しいものが生まれたり古き良きものの見直しがなされた。読書の復調は後者の一つであろう。コロナ禍、にわかに本が売れ出した現象に「これまでみんな忙しすぎて本屋にも行けず読書機会を奪われていたんだな」とか「やはりいいものは見直される」といった意見が多く出されたことを覚えておいでだろう。現実に老舗出版数社の制作部門では、緊急事態宣言下でも重版業務従事者はテレワークもできないほど多忙で、感染予防を十全に行いながら出社して業務をこなしていたといわれる。

こうした状態を「読書あるいは本の復権」と歓迎的に主張する向きもあった。確かに本の良さを再発見したという声や、じっくり本を読むことの意義や効果等も語られた。しかしながらこの現象じたいは、本が見直されたあらわれだとして筆者も歓迎した。とはいえ、一時的なものとして受けとめる必要があるのではないかと考えていたことも事実である。というのは、一つには経済の落ち込みが先々購買力の低下につながっていくことを懸念したからである。前置きが長くなり過ぎた。ここらのことは別稿に譲る。

今回取り上げた記事で気になったのは、コロナ禍で出版不況を脱出したかのような様相を呈した出版界で大きく伸びた電子に関する記事の一部である。12月10日付日経新聞デジタル版「記者の目」の「電子出版取次メディアドゥ、2000社集める高資金効率」である。

記事全体は、電子出版取次として不動の位置を占めているメディアドゥの成長ぶりから安定的業績好調さを描くいっぽうで、売上高の2割を占める電子書店企業(LINEマンガ)との取引が切れることでの売上高の減少の影響が今後を考えると小さくないというものだ。同記事によると、電子書店が「取次業務を内製化する動きが」あるとのこと。つまり電子書籍も紙の本同様、取次を介さず出版社と書店の直取引が進んでいく可能性があるということである。

LINEマンガの離脱発表と巣ごもり需要の落ちつきを主要因として、株価が2021年初めから徐々に下がり気味軟調のメディアドゥは「出版業務全体のデジタル化を支援するサービスも強化していく方針」を立てて「電子化が遅れる中小出版社では、なお新規顧客の獲得が見込める」と考えているようだ。

電子書籍の伸長は、コミック発行の大手出版社が牽引している。その結果、中小零細出版社との業績格差はかつてなく大きくなった。小規模出版社は未来をかけて、電子化を考えていく必要があるだろう。

タイミングよく出版労連では第48回出版研究集会を開催し、12月15日(水)に「小規模出版社でも☆彡電子書籍が作れる・売れる」という分科会をおこなう。