毎月行われる出版研究室の討議では、出版業界の問題だけでなく、国内外の政治や人権問題なども、重大なテーマとして扱っている。
ここ数ヵ月間、逃亡犯条例改正案に、激しい抗議デモ活動をくり広げた香港市民たち。先月初めに、改正案の正式撤回が香港政府より表明された。しかし、中国政府は、一国二制度での香港独自の自治に揺さぶりをかけ続けている。この状況に、香港の本屋たちも、抵抗を続けている。
このほど出版された日本・中国・韓国の本屋ルポ『本屋がアジアをつなぐ』(石橋毅史著・ころから刊)では、2015年におこった銅羅湾書店事件の主要人物、林榮基氏の単独インタビューを掲載している。
同著では、香港の本屋はいまでも中国共産党に批判的な「禁書」を店頭で扱っている様子が描かれている。
銅羅湾書店でも、中国政府に批判的な書籍の販売のほか、中国本土の市井の人々からの求めに応じて、宅配等での販売も行っていたという。書留による送品は検閲の危険が大きい。本土の協力者を拠点とした独自ルートで、読者に「禁書」を届けた。通販の売上は、多いときで店全体の7割を占めた。どうやらこの行為によって、自分たちは目を付けられたのではないか、と林氏は語る。林氏は8ヵ月間の後に釈放されたが、経営者たち数人は、未だ拘束されている。林氏は今年4月、香港を見限り台湾へ渡った。台北の若者の街・西門街にて、本屋再開を目指している。
香港の本屋から届けられた本の影響力は、如何ばかりのものか。一度人手に渡った本は、あたかも自由意志を持つかのように様々な人とふれ合い、影響を与えていく。そのリアルな力を信じて、日々、黙々と売る本屋の力を、目の当たりにしたように思う。
(出版研究室・佐倉エリカ/『出版労連』2019年10月1日‐1567号より)