多国籍企業アマゾン―利便性の裏に(出版研究室から[21])

1994年に創業し、97年に米国ナスダックに上場、世界最大のネット通販企業となっているアマゾン。「商品を可能な限り速く、低価格で消費者に届ける」ことで成長し続けてきた。
これを成しえたのは、交渉力を背景にした業者への負担転嫁、低賃金非正規労働者の犠牲による。欧米でストライキの引き金となった巨大物流センター内の過酷な長距離移動。日本でもネット対応のため24時間365日という非人道的な稼働。
フランスでは、国内の書店を守るため2014年、「ラング法(書籍の定価販売を義務付けた法律。例外的に最大5%までの値引が認められている)」の補完的位置に「反アマゾン法」を成立させオンライン書店が書籍を無料配送することを禁じた。アマゾンは送料を「0.01ユーロ」に対抗。ネット販売の拡大は止められず、逆にこのことが、国内の既存店にまで及んでしまい、中小書店の経営を悪化させてしまった。
アマゾンジャパンは、8割近くの取引業者から手数料を半強制的に徴収したり、取引価格を他社より低くするよう要求するなど、優越的地位を濫用して実害を及ぼしている。出版業界は買切制の提案に対し、一定の取引基準を設けるなどの議論が必要なのではないか。
ILOは、1977年に「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」を採択した。その内容は、雇用(均等待遇、雇用の安定)、賃金・労働条件、安全衛生、労使関係(結社の自由と団結権、団体交渉)などに及ぶ。最近では2017年に改定され、宣言の内容は拡充されている。今年は従来参加に否定的であった途上国も参加し、新しい国際秩序を求める運動が起きている。

(出版研究室副室長・小日向芳子/『出版労連』2019年6月1日‐1563号より)