(①「駿台、竹島・南京の記述一部削除/日本史テキスト 批判ツイート受け」朝日新聞9月14日、②「日本史記述削除 駿台撤回へ竹島・南京巡り 講師と合意」朝日新聞10月14日、③「日本史テキスト/改編一転白紙に」東京新聞10月24日から)
10月24日の東京新聞の「こちら特報部」では「駿台が一転、削除を白紙に戻した」と報じた。この間、名門駿台予備校(以下、駿台)でいったい何があったのだろう。気になる…。少しさかのぼって見ていこう。
朝日新聞は9月14日に「駿台予備校が、日本史テキストのなかの竹島や日中戦争中の南京事件をめぐる記述の一部を削除した」と報じていた。理由を駿台は「批判定なツイッターの投稿が多かったことを重くみて削除を決めた」と答えている。
10月14日の朝日新聞は事実関係を次のようにまとめている。⑴「8月29日、ツイッター投稿があった」、⑵「同31日に自民党の山田宏参院議員事務所から数回問い合わせの電話があった」と。駿台は「(山田事務所から)削除・訂正要求はな」かったとしている。しかし、突如ツイッターでの指摘があった2日後に山田事務所から問い合わせの電話が入るというのは、いかにも出来過ぎた話である。組織的な連係プレーと考えられないか。ちなみに件の議員は、杉並区長時代に「つくる会」教科書を採択した責任者の一人である。
テキストの該当箇所をごく短くまとめると「日本は独島を編入して既成事実化して竹島と命名した」「中国民衆(など)の虐殺は十数万人以上」(①)というものである。これに対して山田事務所は「竹島の記述にかんして、日本政府の公式見解と異なる」、「南京事件については諸説あり、さまざまな見解を勘案した表記をすべき」(①)といった見解を示している。
今回の事件の問題として2点見ていく。第1は㋐「政府見解」であり、第2は㋑「表現の自由」である。
㋐は2006年の教育基本法改正の流れからの「2014年教科書検定基準改定で政府見解がある場合はそれにもとづいて記述することが求められている」(②)という問題である。詳細は省くが、今年5月に日本維新の会が同様の問題で国会で動いたことは記憶に新しい。(関連する出版研究室HPの10月4日付「教科書会社による歴史教科書の訂正申請をめぐる報道の違い~朝日新聞と産経新聞」を参照されたし。)政府見解が水戸黄門の印籠のような力をもっているようである。竹島=独島問題に関する政府見解は「歴史的事実からも国際法上も明らかに日本固有の領土」としている。南京事件問題では「被害者数は諸説あり、政府としてはどれが正しいか認定は困難」としている。関連して押さえておかなければならないことは「予備校は『学校』には含まれ」ず「予備校テキストは(政府見解の)対象外」であるということである。
㋑に関しては、で広田照幸教授(日大・教育社会学)が「表現の自由や思想信条の自由が脅かされる」(①)と警鐘を鳴らしている。学問の自由の危機でもある。