地元の書店に起こっていること(出版研究室から[67])

つい先日、取引先の書店から衝撃的な話を聞いた。その方は三重県内の町の書店の経営者だが、昨年度まで地元の公共図書館に本を納入していた。今年度からは別の業者が担当することとなった、つまり入札に勝てなかったという。なんと、定価の16%引きの条件を、その業者は提示したのだ。「これじゃあ、うちのような書店は利益はでない。卸業者でないと無理です」。

改めて言うことでもないが、新刊の書籍・雑誌は定価販売が原則である。本屋は定価の21~22%の粗利で、定価の10%を超える値引きは不可能である。

先の経営者の話によれば、図書館側は公然と本の値引きを要求するという。これに対して抗議をしても、「図書館予算が少なくなっている」とか「再版制度がゆるんだから(再版制度の弾力運用がすすんだ、とのこと)」と反論されるそうだ。予算が削られているのはわかるが、再版制度がゆるんだとは、どういった解釈なのか…。

2022年12月来、出版文化振興財団(JPIC)の調査で「書店のない市区町村が26%」との報道がなされている。全国1,741市区町村のうちの456市町村は書店ゼロ(22年9月現在)であるとのこと。

地方公共図書館への本の納入は、地元の本屋が担うべきである。繰り返し無料で貸し出される図書館の本を、なぜ値引きする必要があるのか。もっと言えば、定価の数倍の値段をつけてもいいくらいだと私は思っている。

図書館が僅かな値引きにつられて、地元に縁もゆかりもない企業から購入することで、町の本屋が減る。この事実を、地域住民はよく考えてほしい。町の本屋が無くなり、公費で本屋を新設する事例も散見するが、これこそまさに本末転倒ではないか。

(出版研究室・佐倉エリカ/『出版労連』2023年4月1日‐1609号より)