出版産業におけるコロナ禍の影響の分析は急務だ。先をどう読むかに直接かかわるからである。巣ごもり需要と言われるが、長いトンネルを抜けたかのような売上げ回復と「出版ブーム」が起きていることは事実だ。
ところで、民間企業は業績と無縁ではいられない。企業の健全な安定なくして経営の維持存続はない。労働組合は労働者の生活と労働を守るための組織だからこそ、そのことは絶対的な基礎だと考える。しかしそれは労働組合の経営への従属や追従を意味しない。労働組合の目的と深い関係があるからである。だからこそ経営問題という課題を労働組合は引き受けるのだと筆者は考える。
コロナ禍でとりくまれた出版春闘を見ていく。働き方の問題として在宅勤務をめぐる課題もあったが、ここでは賃金・賃上げに関して現在の出版「活況」との関係がどうだったのかを見ていきたい。
その前に、日本全体を俯瞰してみよう。コロナ禍からの日本経済の脱却は、産業によって回復の速度や質が違う。需要増となったICT企業や通販産業などと、飲食業や観光業、航空・鉄道業界など需要が消えてしまった産業では明暗が分かれている。ただし、春闘回答で言えば、絶不調組はストレートに反映しているが、好調組だからといって良い回答が出ているわけではない。例えば、好調組のトヨタはコロナ禍をものともせず業績をすごい勢いで回復させているが、「百年に一度の危機」を叫びトヨタ労組の理解のもとに賃上げ抑制を押しつけた。一層のコスト削減と非正規の雇止めを伴いながら…。
出版産業の賃金・労働条件は二極化が言われて久しい。コロナ禍はそれを“変異”させながらより一層の分化=格差を広げたようだ。
(以下、次号)
(出版研究室室長・平川修一/『出版労連』2021年5月1日‐1586号より)