コロナ禍と出版産業、そして憲法

新型コロナウイルスが人間社会そのものを脅かす勢いは、とどまるところを知らない。日本においても命の危機に直結する感染者の拡大・増大の問題、経験したことのないレベルの「経済破綻」等々、その深刻さはいや増している。

4月9日の東京新聞夕刊の「文化」面の記事「新型コロナ/書店変化」と、3月23日の「日経MJ」の「分析 ヒット」の「消費を斬る」という記事を読んで、あらためてこの2月末からの出版産業状況を思いかえしてみた。

産業に“異変”が現れたのは、書店からだった。2月27日の安倍首相による小中高の「一律の休校要請」がなされた直後から、「家庭学習用に」と小学生を子に持つ親がドリルを買い求めに書店に走った。爆発的な売れ行きを見せた(丸善やジュンク堂書店では「前週比5割増、前年比(2月29日〜3月6日)72%増」)。発行会社の中には4月から新指導要領の新刊にシフトしていたこともあり、返品を恐れて増刷を諦めたところもあったとか。電子書籍も無料配信なども奏功して売上げは増えた。しかしその後、「3密避け」が言われ、外出自粛要請が強まって以降、書店から客足は遠のいた。なかでも中高年の来店がグーンと減ったそうだ。「緊急事態宣言」にもとづいて、東京をはじめとした7都府県では商業施設内の書店や大型書店は休業へと進んでいった。本の町を代表する三省堂書店本店は休業に入った。

大手出版社のなかには、諸事情により制作に滞りが出ていることや、新型ウイルス感染拡大を抑えるため、雑誌の発売を延期を発表している。書籍よりも雑誌への影響が出ているようだ。働き方では、少なくない出版社が在宅勤務を基本とし、在宅勤務では業務遂行が困難と判断される職場では時差出勤を奨励するなど必死に社員の命を守ることと発行の継続を追求している。

出版物の輸送問題はじめ、何重苦にも見舞われている取次のトーハンと日販は、書店への流通は基本的には止めないことを明らかにしている。「文化通信」(4月8日付)によると「緊急事態宣言」を受けて日販は「書店の状況に応じて業務継続」と発表したことを報じている。

他方で、Amazonのシェア拡大が気になるところである。3月17日のCNNニュースで「新型コロナウイルスの感染拡大によって通販需要が増えているとして、米国で10万人を新規採用する」とあった。日本でもいっそうのAmazon依存が強まるのだろうか。

最後に、2点述べておきたい。ひとつは、こういう時こそ雑誌の出番なのだろうが取材活動が出来ない事態が生み出されている。もうひとつは、「緊急事態宣言」の発出を待つ国民をつくったのは誰なのか、ということである。それとふたつめと関係して、4月7日に共同通信が報じた「安倍首相は衆院議院運営委員会で、緊急事態に対応する憲法改正に関し『新型コロナウイルス感染症への対応も踏まえつつ、国会の憲法審査会の場で与野党の枠を超えた活発な議論を期待したい』と述べた」の記事は気になるところである。

【追記】4月11日(土)、新宿歌舞伎町に警棒を手にした警官が、まるで人々を“威嚇”するかのようにパトロールする姿がテレビニュースで流れた。本文に書いた「『緊急事態宣言』」の発出を待つ国民をつくったのは誰なのか」という点と関係して「警察国家」化を心配するのは危惧しすぎだろうか…。