前回、AIを活用した「結婚に向けたきめ細かい出会いの機会の提供」を、政府の枠組みで取り入れることに、強い危惧を抱いていると書きました。
そんな折に、第164回直木賞の候補作品に『オルタネート』が選出されたという報道がありました。みなさんご存じのように、著者の加藤シゲアキさんは人気グループNEWSのメンバーですね。だから、SNSが生活の必需品になっている若い人たちの気持ちに、かなり近い距離で寄り添うことができるのではないかと思い、早速『オルタネート』を地元の行きつけの書店で購入し、正月休みを利用して読んでみました。
そうでした。なんで私が『オルタネート』に関心を持ったのか、そのことに触れていませんでした。書名の「オルタネート」というのは、高校生限定の「マッチングアプリ」の名称です。ストーリーは、二人の女子高校生と高校を中退した一人の男子の、それぞれの生き方を中心に展開されます。そこにマッチングアプリ「オルタネート」が関わっていくのですが……。ここから先は、ご自身で本を手にして読んでいただくとよいと思います。
高校生たちがマッチングアプリ「オルタネート」をどのようにとらえ、自分の生活の中にどのような形で取り入れていくのか、小説ではありますが、考えさせられるところが多々ありました。中でも、遺伝子レベルの解析によるマッチングサービスの提供に対し関心を高めていく一人の女子高生の姿には、若さゆえの好奇心・探求心の発露を応援するとともに、それが直ぐに行動へと繋がっていく危うさも感じました。もっとも小説では、その後の成長も描かれているのですが。
遺伝子レベルの解析にはAIが活躍することになります。AIは膨大なデータを取り込んで分析し、その結果をベースとしてステップアップしていくように作られています。ディープラーニングと呼ばれるプロセスですね。
その膨大なデータには、遺伝的な特性や病歴なども含まれてきます。そして、そのようなデータ収集の対象者となるのは、本人だけでなく家族や血縁関係のある親族などにも及んでいくことが考えられます。
解析の制度を高めるためには、AIは際限なく膨大なデータを取り込んでいくことになるでしょう。その膨大なデータはどのようにして集められていくのでしょうか。
政府はこれまで、マイナンバーカードの普及を進めてきました。医療情報と連携した保険証の役割を付加したり、免許証の役割を持たせたりしようとしています。しかし、国による個人情報の一元化に対する国民の不安感などから、マイナンバーカードの普及は、政府が思うようには進んでいません。
そんな中で、現在の政権は「デジタル庁」なるものを作り、データの一元管理を強力に推し進めようとしています。
このような政府が、「少子化対策」と銘打って、AIを使った出会いの機会を提供するシステムを導入しようとしていることに、私は強い危惧を抱いているのです。
政府が管理する一元化されたシステムに、前回書いたような趣味や嗜好などのまさに「内心の情報」と言えるものだけでなく、保険証と関連付けた医療情報、さらに遺伝子レベルの情報までも含まれていくようになるとするのならば、そこに政府による個人情報収集への凄まじい執念を感じてしまいます。
だから内閣府による政策は、新たな個人情報収集のための手段だと、勘繰りたくなってしまうのです。
みなさんは、どのように思われますか?