最後の「結章」は、数式による分析はなく、結論の文章だけなので、以下のように、出版人に読みやすい。
日本の取次は、諸外国と異なり、雑誌の配送に書籍を加え、一体的に配送しているが、「今後も雑誌の発行部数の大幅な減少が続くならば、雑誌の流通に書籍が追加されているという発想は、実態とはそぐわないものとなるだろう〔下線新村以下同〕」と述べている。2017年のデータを示したあとの文である。
「取次から書店に新刊書が自動的に送られ、書店が定価で販売し、売れ残りを返却するシステムでは、書店独自の方針で書籍を選定し、販売する余地が少なく、書店が独自のマーケティングを行う誘因は働かない。」返品期間が設定されているので、短期間で返却されることが多く「消費者が書店でニーズにあった書籍に出合う機会の低下につながるかもしれない」とする。第3章で書籍が「月刊誌の販売形態に近づいている」と述べられているのと通じている。定価販売、返品条件付き委託販売制の問題点の指摘である。
そして日本の再販制の批判である。再販制を適用している国でも「価格拘束期間は制度上、2年程度であり、それ以降は価格が需給ギャップを是正する手段となり得る」。「日本の再販売価格維持制度は硬直的といえる。」
すなわち、日本の書籍流通の根本的批判である。また、市場の縮小のなかで新刊書の発行点数が増加したことをあげ、2016年に新潮社が文庫本の新刊点数を減らしたが、1点あたりに時間をかけたことにより総発行部数と重版点数は減少しなかった例を紹介して、「出版社が持つ人的資源に比して、過剰といえる新刊書を発行していた」とも述べている。
著者の勤務先、東京の御茶ノ水、駿河台近辺には版元・取次・書店が多く、八木書店が時限再販本を供給し、三省堂書店本店にそれが並べられていることを見ていること、幼い時の書籍購入体験を紹介して、色を添えている。
そして――状況は変化する、漠然とこれまでのシステムで運用してはいけない、「これまでの書籍の流通システムの当初の目的と問題点を見直し、出版社も書店も成長し、記憶に残る本、知識の伝搬に有益な書籍を作り続けてほしいと切に願う」と結んでいる。
以下、評者の感想と意見である。
浅井氏は、出版業界の状況をよく調べ、データを、制約もあきらかにしながら綿密に設定していると思う。数式は太刀打ちできないが、上記の結論は共感できるものである。出版人としては、謙虚に改革のための参考にするべきと考える。
大型店を眺めると、同じような著者の本が大量に平積みにしてあり、それが入れ替わっていく、浅井氏が売り方が月刊誌的になっていると言われるのを感じる。また、大手取次は集配のための土地と設備に力を注ぎ、多品種である書籍のIT管理が遅れているように思える。Amazonはいうに及ばず、他の流通関連の業界と比較してである。雑誌の上に書籍を乗せてきたかたち、マスプロ・マスセールスの面が変えられてないと思わざるをえない。
雑誌は必要であり、トーハン・日販がなくてもよいというわけではないが、今後は大手取次を相対化する方向をとらざるを得ないであろう。逆に、小売書店の主体性を拡充することが大局的に目指されるべきである。トランスビューのような版元との直取引の増大、時限再販の推進が考えられる。買切りで書店マージンを上げる方向が伴うであろう。また、講談社・小学館・集英社と丸紅の共同によって設立された、出版流通の会社の動向も注目される。
実は、版元との直取引、買切り(返品なし)、時限再販というのは、Amazonが目指すところである。それは合理性があると言わざるをえない。しかし、「黒船」の力で変えられるのではなく、日本の出版業界の力で変えていくべきである。
時限再販について、ジュンク堂書店難波店の福嶋さんは、書店の値付けが難しいと言われた。たしかに、不特定多数の客を対象にする同店は、隆祥館書店のように顧客の顔が見えている店より、それは難しいであろう。しかし、逃げていていいのかとも思う。隆祥館書店の二村さんは、著者を迎えてのトークイベントを長く続けている。大阪谷町六丁目の13坪の本屋である同書店は、地域を中心とした読者とのコミュニケーションを大切にしている。私も何度か行ったが、著者と直接触れあうことができるGOODな取組である。また、その著書の販売をセットにしたかたちは、すでに厳格な価格拘束、再販制からはずれていると思われる。二村さんは、かつては雑誌6、書籍4だったが、今は書籍7、雑誌3であると言われていた。(この部分、2020年11月の出版研究集会in関西とその準備の打合せからである。)
小売書店の活性化、再生のために、時限再販の推進を。これがグローバルスタンダードだ。この本を読んで得た私の改革のための提言である。
(しんむら やすし、出版労連京都地協)