「第2章 書籍の流通と価格拘束」の2回目である。前回は世界各国の価格拘束の実態紹介であった。今回は後半の、世界的な理論面での議論の検討である。
まず、価格拘束が必要だとする、ヨーロッパの出版業界の考えを紹介している。一つは地方都市の小売書店を守るため、もう一つは多様性を保持するためである。日本の感覚に近いと思われるが、後者の理由は、ベストセラー的な本について、価格拘束によるダンピングを避け、収益を確保することが、採算をとりにくい書籍の刊行につながるというものだ。日本ではあまり聞かない考えに思えるが、実態としてはあることではある。
そして、最も強調されるのが「書籍が文化の普及や知的水準の向上に貢献しているという点で、一般の財とは異なる特性を有するという」ことである。英国で価格拘束をめぐる裁判で認められた際に使われた、業界団体の“Books are differnnt”の言葉が象徴的である。これは、日本でも『本は違う――イギリス再販裁判の記録』(箕輪成男編・訳、新泉社、1992年)として紹介され、90年代の再販制堅持闘争のなかで、勇気を与えるものだった。
しかし、出版社と書店間の定価販売協定(Net Book Agreement NBA)は、1995年に崩れていき、1997年には裁判所から違法の判断を受けて制度的に終了した。本書では、廃止後の現在、その論点と研究が紹介されている。
論点は、価格拘束がないと、①価格が上昇する恐れ、②発行点数が減少し、多様性が損なわれる恐れ、③書店数が減少する恐れ、の3点である。廃止後の変化はどうだったか。
①については、下がったという研究がある一方で、違う算定方式の取り方で上昇傾向との研究もあり、一般の物価指数との比較、ページ数や装幀の違い、紙・印刷代などのコストの変化を含めて、NBA廃止によって生じたものかの判別は難しいと結論づけている。
②については、発行点数が減少したとはいえず、「NBAの廃止が多様性の低下をもたらしたという明白な証拠は見当たらない」とする。
③は、その差は小さく、前後で書店数の大きな変化はなかったとする。ただ書店に、⑴大型書店、⑵多種多様な書籍を扱う書籍チェーン店、⑶特定のジャンルを扱う専門店に分化する傾向が出ているとの研究があることも紹介している。
研究全体としては、「価格拘束が望ましい市場成果をもたらすという証左は得られなかった」が、国による運用の相違があり、英国は価格拘束がもともとない米国と同じ市場圏にあることもあり、日本にそのままあてはめることは早計としている。
小括として、価格拘束の有無だけでなく、返品の有無や書店のマージン率等も国によって異なり、「価格拘束の問題は、日本の書籍流通全体の視点から見直すことが必要である」と慎重に述べている。
以上が「価格拘束」についての章である。多くの国が、書籍について軽減税率を適用していることも触れられている。図書館からの貸出に応じて、著者や出版社に一定額払う「公貸権」を設定している国もある。筆者はグローバルな状況と論点を読んで、日本の業界は、再販制を金科玉条の如くし、触れるべからずとする傾向があり、狭く硬直していると感じさるを得ない。窓を開けて議論しようではないかと言いたい。
(しんむら やすし、出版労連京都地協)