メタバースは出版産業を変えるか(出版研究室から[59])

『新文化』3423号(2022年7月7日付)紙面の2 つの見出し、「小学館 メタバース事業に本格参入」、「KADOKAWAメタバース書店など無料公開」に目が留まった。記事を読んですぐに、小学館の「S-PACE(スペース)」β版をPCで開いてみた。以前に「バーチャル渋谷」を覗いてみたことがあったのでメタバースのイメージは持っていたのだが、メタバースを出版産業と結びつけてイメージできるようになるには、もっと「S-PACE」に入り込む必要があるのかもしれない。

バーチャル渋谷を覗いてみたときに、著作権との関係で感じたことがある。例えば、現実の空間にある建物などをメタバースに再現する際の権利関係についてだ。建築の著作物は著作権法46条に示されている場合を除いて、写真に撮って利用するなどの行為が認められている。だが、それをメタバースの領域で行う場合はどうなるのだろうか。46条の適用で画像や映像をそのまま使うのは問題なさそうだが、インターネット空間であることを考えると、公衆送信権や送信可能化権との関係を考えておく必要があるような気もする。

また、メタバース内で利用するアバターの著作権だが、利用者が加工できるようになっているアバターは、二次的著作物になるのか、それとも元のアバターの提供者と利用者の編集著作物になるのか。メタバースの中の「出版界」では、現実社会よりも複雑な著作権管理や出版契約への対応を求められるようになるかもしれない。

現在、有体物である本が紙からデジタルへと移行しつつあるが、それがメタバースという仮想現実の空間の中ではどのようになっていくのだろうか。出版労連の産業政策は、メタバースをどのように捉えたらよいのだろうか。今後の動きから目が離せないように思う。

(出版研究室主任研究員・前田能成/『出版労連』202281日‐1601号より)