取次との関係と取引条件
――取次からの入金のシステムはどのようになっているのでしょうか。
菊地:注文品に関しては翌月支払われます。25日〆で翌月の末払いです。委託は6~7か月です。注文品は翌月末入金されるのでよい方です。例えば100万円を納品したら30%の30万円支払い保留があったり、50%の50万円支払い保留などという会社もあります。
――注文でも、納品額の半分の50万しか入らない、ということですか。
菊地:そうです。あとは6か月後です。それが毎月溜まっていきます。だから資金繰りが詰まります。それに、歩戻しというのがあり委託品は売れても売れなくても納品額の3~5%引かれます。100万円委託すると、そこから3~5万円を引かれます。当然ですが取次の言い分もあります。仮に100万円委託して100万円が全部返品になったとすると、取次の手数料はまったくゼロ、赤字ですね。そのために最初から手数料を計上する、ということです。
――出版労連でも取引条件を調べていて不公平な取引条件に直面することがあります。取引条件の変更が容易ではないことはわかります。
菊地:それは簡単な話ではありません。弊社のような出版協(日本出版者協議会)加盟社は取引条件の改善はひとつの柱です。いま取次大手は3社しかないです。もっと多くの取次があったときには交渉で少しずつでも考えてくれました。しかし、昔から正味変更はありません。どんなに売上が増大しても正味変更はありません。われわれ出版協では、それを「封建的身分制」といっています。
歩戻しや支払い保留は実績さえできれば変更可能でしたが、今は変更が難しくなりました。取次も、計算すればたしかに儲かっていないのがわかります。ただ、中小版元の役割のひとつに大手版元が出せないような本を出すということがあります。それこそが出版の多様性で、それを確保しているのは中小出版社だと思っています。それは大事なことだと自負しています。
――それは本当に大事な点だと思います。いわゆる小版元の大切な役割です。
菊地:出版物は多様性でしょう。そこをはずした、大量生産で同じものだけだったら表現の自由というのが危うくなりますね。
――取次は雑誌中心で発展してきた業界です。雑誌がここまで落ち込むと出版流通全体のシステムに矛盾が出ているのがわかります。
菊地:出版売上は96年から下降の一途ですが、書籍の販売下落はそれほどでもないのです。雑誌は下がりっぱなしですが。書籍は点数の増大でカバーしていたのですが、その点数もここにきて減少しているようですね。
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