現代書館 菊地泰博さんインタビュー Vol.5

今後の出版産業への抱負

――出版労連には経営困難や危機に陥った版元の組合から、経営をどうしたらいいか、という相談が舞い込むことがあります。山積する産業課題などについての意見交換をしています。出版協などで業界に関する様々な活動もされている菊地さんのお立場から、率直なご意見をお聞かせいただければと思います。

菊地:同じ出版業界の版元でも零細と大手では全然違うと思います。例えば正味について弊社では全社員が知っていますが、大手出版社のなかには自分の会社はいくらで本を作って何掛けで売っているのか知らない人が結構いるのではないでしょうか。例えば、「ウチの社の正味は6.9掛ですよ」と話しかけた場合、大手の人のなかには、「えっ正味って何?」というようなことはよくあります。同じように、出版社で仕事をしていても編集と営業の人では全然違います。また、取次との関係についても情報と知識に格差がありすぎます。このあたりについての相互の理解が必要だと思います。

――業界全体の売上は96年のピークから減少し続けています。特別な対策がなければこのまま下がっていきますよね。

菊地:弊社も自慢じゃないけど全然儲かっていません。従業員には申し訳ないけど、賃金はあまり上がっていません。昔はちゃんとベースアップもできました。ボーナスも出せましたが、今はもう賃金は横ばいです。ボーナスもほんの少しは出せるけど。

――今、出版労連のなかでもボーナスを出せないところは結構あります。加盟組合を業種で区分けをしています。例えば総合書という括りの大手版元の労働組合のグループがあり、ボーナスが4か月のところがある一方で、賃金カットをしている会社もあります。

菊地:『出版ニュース』で見ています。出ているところはある、それもすごい差がありますね。そういう時には話してあげたらいいですよ、4か月もあれば4日分もあると。(笑)

――格差が拡大して好条件の会社に応募者が集中するのでは、この産業の将来が心配です。これから出版産業をめざす人たちにも出版の多様性や本づくりの魅力を伝えていきたいと考えています。

菊地:私は今日明日食えないわけではない。なんとか食っていますから。でも若い人はそうはいかない。小さい出版社の社長たちと飲む機会がありますが、話題はいつも売上が伸びないという話になります。利益が出ないので働いている人たちにも悪いと思っています。私自身、年に2回頭を下げます。ボーナス時になると「これしか出せなくて申しわけない」と。うちではみんな納得してくれますよ、というのは全部オープンになっているので。社長が年金生活ですからね。(笑)

――同じような話はよく聞きます。版元でも書店でも、こんなにもうからない商売は子どもにさせたくないからと会社をたたもうとする方がいます。むしろ土地、建物で不動産業をと本気で考えているということも聞きます。

菊地:本当にこれから先は経営的に気にはなりますが、人さまに迷惑かけたくないというのが基本です。ただ企画によっては売上も期待できる、そこの面白さはあります。はじめてこの業界に飛び込んだときの「志願」の気持ちは忘れたくない。こんな政治の劣化・倫理観の欠如の時代に、一矢を報いたいですしね。なんとか続ける努力をしています。

――今日は会社の実情も交えて率直なご意見をお聞かせいただきありがとうございました。

 

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