政府がデジタル改革関連6法案を国会に提出した。菅首相が官房長官時代から一貫して進めてきたデジタル化政策の根幹となるものである。行政事務の煩雑さを解消し、利便性の高い行政サービスを推進するというのがうたい文句である。法案は、2025年度までに現行の自治体ごとに異なる福祉や税に関わるシステムを国の基準で統一して、9月にはこれを全国的に管理するデジタル庁が設置されるというものである。
信濃毎日新聞(2月12日)は、このデジタル化法案を「地方自治の観点から中身を捉えてみたい」とする社説で問題点を取り上げている。
第一に、法案にある個人情報保護法に関して、現在は自治体が個別に定める個人情報保護条例を全国共通の規則に改め、政府の委員会による一元的な所管への変更を問題にしている。各自治体間での広域の連携、また国との情報共有や行政データの民間活用が容易になり、地方のデジタル化が促進される。この先にあるのは自治体再編であり、効率化であり、職員のさらなる削減、公共サービスのさらなる民営化を危惧されることを指摘している。
第二に、マイナンバーカードの普及促進をあげている。法案は携帯端末にカード機能を搭載させ、預貯金口座の登録を可能にしている。コロナ禍で給付金、助成金の事務処理が遅れたことが背景にある。しかし、社説は「対策の不備は、国民が不要とする布マスクを配布したり、高額の委託料で実務を特定の団体に任せたりした結果でもある。平成の大合併で自治体の規模を広げた一方で、保健所や職員の数を減らしてもきた。元をただせば、強引な構造改革の付けといえる」と厳しい批判をしている。
山村でも(だからこそ)携帯端末は老若男女誰にとっても必需品である。近くに郵便局や金融機関はない。各種の手続きがオンラインになれば便利になり、効率化できるに違いない。
しかし、実生活はデジタル化やオンラインでの便利さだけでは成り立たない。地方の病院を例に挙げれば、すでに統廃合されている。その病院がコロナで崩壊の危機にある。公共交通も合理化されている。交通インフラが整備されれば高齢者も安心して移動できる。デジタル化の促進、便利さの追求をしても、生活に密着した行政サービスはどうするのか、その具体的なビジョンはない。平成の大合併から20年、広域行政で効率化、住民サービスの向上が喧伝されたが、コロナによる医療制度の危機を挙げるまでもなくインフラはむしろ脆弱になっている。
いま、菅政権が進めるマイナンバーカードに紐づけたデジタル化は都市も地方も関係なく個人情報、預貯金口座、健康保険、運転免許などあらゆる情報が国家に集約されることになる。信濃毎日新聞は、「便利さの影を見据えつつ」とタイトルをつけた社説で「デジタル化が自治体運営の助けとなる域を超え、国による統制を強めることにならないか。地方も慎重に見極め、意見を発したい」と結んでいる。