取次を経由した流通による出版物の販売金額は、毎年減少を続けています。出版科学研究所は、2017年の出版物の販売金額を、1兆3,700億円と推定しています。そのなかで、電子出版の市場はここ数年拡大を続けており、2017年(1~12月)の電子出版(雑誌・書籍・コミック)の市場規模は2,215億円となっています(『2018年版 出版指標年報』)。なお、インプレス総合研究所の調査では2017年度の市場規模は電子書籍が2,241億円、電子雑誌が315億円で、合計2,556億円となっています。
しかし、日本と同じように本や新聞の電子化が進んできていたアメリカでは、電子書籍の売上が減少して紙の書籍の売上が増加しているという状況があります。今後の動向をしっかり見ていくことが重要です。
教科書のデジタル化も進んでいます。文部科学省が進めていた「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」が2016年12月に提出した「最終まとめ」では、デジタル教科書の活用についての意義や方向性などが示されました。2020年度には紙の教科書との併用のもとで、デジタル教科書の導入が現実化しそうです。
一方、教科書のデジタル化が教育に与える影響については、さまざまな意見が飛び交うものの、十分な科学的検証が行われているとは言い難い状況にあります。教育現場の主役は児童・生徒たち、そして教師たちです。そのことを忘れずに「出版物のデジタル化」、「教科書・教材のデジタル化」、そして「教育のデジタル化」を考えていくことが重要です。
紙の出版物はオフセット印刷という方法で印刷されるのが一般的ですが、現在はデジタルデータから直接紙に印刷するオンデマンド印刷が増えてきています。そしてオフセット印刷のCTP化やオンデマンド印刷化は、その前工程のプリプレスのデジタル化、編集作業のデジタル化と繋がり、「出版物のデジタル化」をさらに進めています。
この流れは出版界で働く人々の「働き方」にも大きな影響を与えています。インターネットやSNSなどの普及によって、誰でも“発信者=著者”になることができる時代がやってきました。編集者が著者(作家など)を探し育てることに新たな課題が加わったように思われます。また、デジタル化された文字やイラスト、写真などの入稿や校正に際し、デジタル環境に則したデータについての知識が求められるようになりました。さらに、デジタル化に対応した様々な権利についての知識も求められるようになりました。
デジタル化が出版産業の構造を変え、産業を維持する技術を変え、そこに働く人々の働き方を変えることを、もう一度確認することが必要です。