調和を図ったうえでの制度設計を(出版研究室から[42])

図書館資料のデジタル送信サービスに関して、法改正の議論が進んでいる。一定の制限を設けていた図書館蔵書のオンライン送信に係る法改正で、著作物の種類(絶版か、現在流通しているものか)によって制度の運用は異なる見込みだ。

絶版扱いの資料は、厳格なルールの下で個人への無償提供を想定する。現在流通している著作物については、権利者への補償金制度を設立したうえで、デジタル資料としてオンライン提供を検討。実際の運用は、本国会で著作権法を改正した後に設置する関係各社の協議会で、ガイドラインを策定するという。

この議論はコロナ禍により全国の図書館や大学が閉鎖に追い込まれ、必要な資料を入手できず、学術研究を行う人々に多大な損失が生じたことに起因する。あわせて現政権が推し進めている、あらゆる分野のデジタル化の一環としての施策だとも考えられる。

個人としては、図書館のデジタルサービスは利便性向上の面で期待する一方、すべての資料を無償(もしくは低料金)でオンライン入手できる環境が、既存の出版・情報産業の発展を阻害する要因になるのではと懸念する。

現在、公共図書館で無償提供されているすべての図書は、当然ながら著者や編集者、その他出版関係者や流通業者などが額に汗をしてつくられたものである。公共図書館が、活字による「知る権利」を担保すべきこと、また、新たな潜在読者を創出していることは大いに理解する。しかし、すべての読みたい本を、家に居ながら手軽に読みたいという読者ニーズのみを保証しようとする行為は、「海賊版サイト」の発想に近いではないだろうか。権利者の保証と、公による知の有効活用の調和を図ったうえでの新たな制度設計を願いたい。

(出版研究室・佐倉エリカ/『出版労連』1556号‐2021年3月1日より)