浅井澄子『書籍市場の経済分析』の紹介 その2   新 村 恭

著者は「序章」で、日本では業界内の閉じた議論になっていると述べ、再販制のない米国、再販制があってなくなった英国を中心に国際比較を重視している。それによって、日本の市場の性格、特殊性がいっそう明らかになるというわけである。「第1章 書籍市場の概要」もそのスタンスで書かれ、大局をつかむことができる。

出版に関する海外の研究もしっかり踏まえられており、書籍市場の特徴も“The Economics of Books”(Handbook of the Economics of Art and Culture 北オランダ刊)から引かれている。「①需要の不確実性、②少量多品種の提供、③多額の固定費用と小さな限界費用〔企画・編集・制作はかかるが、重版の追加出費は少ない〕、④参入・退出の自由、⑤多数の売り手の存在」というのは、日本の出版界でも認識されている、普遍的なものである。

比較は、音楽CDとの間でもなされており、需要・供給の集中度は、日本の音楽CD市場もそう高くないが、出版はいっそう低いと結論づけられる。ここでの分析数字データは、出版科学研究所のものだけでなく、主要小売書店からデータを集めてタイトルごとに部数も公表しているオリコンのものを重視しているのが印象的である。音楽CDの上位社は、グローバル企業が少なくないが、出版は「海外企業との連携事例は少ないうえ、成功しているとは言い難い」。

電子書籍についても概観される。日本では、市場の2割近くを占めるようになっており、欧米と比較しても比率が高いが、コミックが8割を占めている特異な状態である。「日本の電子書籍はコミックに偏っており、コミックに馴染みのない読者には、電子書籍の浸透度合いは低いということになる。」電子書籍は、上記特徴③の「限界費用」がゼロに近いので、乗ったばあいには利益が大きくなる。冊子体と違って、再販制の価格拘束はない。

販売・価格設定は、出版社が電子書籍提供者に販売し、電子書籍提供者が価格を設定してサービスを提供する「販売モデル」と、出版社が電子書籍提供者に販売業務を代理店として行わせ、価格は出版社が設定し、提供者は一定の手数料を得る「代理店モデル」に分かれる。講談社、小学館、集英社、文藝春秋、光文社が「代理店モデル」、KADOKAWA、新潮社、幻冬舎、PHP研究所、東洋経済新報社などが「販売モデル」で、日米ともに両モデルが併存のかたちとされる。

最後に、電子化された学術情報の提供について触れられている。理系を中心にコミック以上に電子化が進み、2015年の大学図書館の支払額は281億円に達している。読者に無料で提供する仕組みも学術系組織によるものと、オープン・アクセス・ジャーナルに分かれている。ここでは、著者が論文処理料として費用を負担するかたちもあり、「出版社の収入源が読者から執筆者に移行」する面もでている。

筆者は電子書籍には馴染みがないほうであるが、そのビジネスモデルが多様で模索中であることが感じとれる。

次回は、第2章の、再販制もからむ流通の問題を紹介する。

(しんむら やすし、出版労連京都地協)