夫婦別姓反対論は、大きなお世話(出版研究室から[54])

ここ数年、国政選挙が近づくとネットを賑わすものに「ボートマッチ」がある。政策ごとにユーザーの賛否を問い、親和性のある政党や候補者を紹介してくれるサイトだ。2007年に読売・毎日両社が開設して以来、増加傾向にある。

これらのサイトでは近年、同性婚や選択的夫婦別姓への賛否が、経済政策や憲法観などと並んで、質問項目の「常連」となっている。昨年の総選挙では、新型コロナ対策関連の質問が加わった影響で、憲法などへの問いを省略したサイトが多い中、同性婚・夫婦別姓への質問はほとんどのサイトで残った。各社がこれらを、有権者の関心が高い項目と見ている証左といえる。

これらとは別に実施された各世論調査などでは、両件とも、おおむね7割前後の有権者が「認めるべき」と答えている。一方、総選挙前の各党の公約では、共産から公明・維新までが推進論を掲げるなか、自民党のみが両件への慎重姿勢を見せた。しかし、選挙結果は自民党の微減勝利。両件のみに注目すれば、有力な争点になったとは言えない。今回は何といっても新型コロナ対策が争点化したので致し方ないが、コロナ後には、あらためて重要な人権課題として浮上してくるだろう。

保守派は、特に夫婦別姓に対して「家族の一体感が損なわれる」との反対論を持ち出すことが多い。これに対し、推進派は「互いに尊重しあう夫婦のもと一体感は強まる」と反論するのが定石となっている。しかし、ここからは私見だが、家族の一体感という計測困難な論点設定に乗っかり、応戦するのは得策でない。頑迷な保守派には、ひと言「一体感? ヨソの家庭でそれが保たれようと損なわれようと、あなたにどういう害がある?」と応じればよい。問題は各個人が「同性婚や別姓婚をするか・しないか」ではなく「他人の人生に口出しするか・しないか」なのだから。推進論に理があるのは自明だ。

(出版労連副委員長・大江和弘/小学館労組‐『出版労連』2022年3月1日‐1596号より)