コロナ禍と21出版春闘②(出版研究室から[45])

出版産業では、コロナ禍が倒産を加速させたとか、コロナ禍を理由に賃金・労働条件の切り下げが横行したとは聞いていない(フリーランスからの労働相談は増加傾向)。本題に入る前に、今月も産業動向を見ていこう。

帝国データバンクのニュースによると「書店の倒産が急減」したそうだ。コミックに引っ張られた感のある巣ごもり需要が大きい。「紙書籍」が再認識されてきたことも事実である。とはいえ今後の電子書籍の普及を考えたとき、出版のDXには資金力のある大手数社と多くの中小では、二極化に拍車がかかるのではないかと考えるのは筆者だけではないだろう。

21出版春闘の結果がほぼ出揃った。巣ごもりによる「本を読む」人の回復増加と、『鬼滅の刃』が牽引したコミックに支えられて、賃上げ・一時金ともに他の多くの産業に比べてコロナ禍の影響を受けてはいない。しかし、回答の平均からは、直接的なコロナ禍の影響とは考えにくい低調中小社の実績ダウンを好調大手社が上に引っ張り上げた側面が読み取れる。電子の伸びが大きいコミックは寡占化が進み、版権を有する大手は、ベアには厳しい対応だったが、変動制の高い一時金で実績以上の回答をしている。

また、夏季一時金や在宅勤務関連の必要経費としての手当要求に対して、組合要求には答えず決算賞与で答えるという経営がいくつかある。組合との交渉は不要で、経営の考えひとつで金額と支給を決められるという決算賞与は使い勝手がいい「特別手当」ということだろう。業績が回復あるいは順調の経営者にしてみれば、今の好調は一時的なものかもしれず、いつまた出版不況が訪れるかわからないと考えたとき、決算状況を見てから支給を考えることができる決算賞与は予算化不要の“うまい手”だというべきか。

(出版研究室室長・平川修一/『出版労連』2021年6月1日‐1587号より)