「AI配本」への期待と多様性(出版研究室から[48])

このほど、トーハンと大日本印刷(以下DNP)が、物流改善などを目的とする業務提携を発表した。かねてよりDNPが開発を進めてきたデジタル技術を活用した需要予測を、広く一般に導入する試みと思われる。

DNPは2018年、AI(人工知能)を活用した書籍の製造と物流による新サービスを発表した。これは、同グループ傘下の書店と、資本・業務提携を行う出版社の販売データを活用し、書籍ごとの売れ方のサイクルをAIで分析したもので、より最適な発行部数や重版のタイミングの見極めが実証されたという。誰が言ったか知らないが、これらの試みは「AI配本」と名付けられている。

ベストセラーを次々に出す方法があれば、返品をできる限りなくせれば、どんなに良いことか――。それを模索するため、業界各者は長年にわたり、売上スリップやPOSデータの分析を行ってきた。しかし、出版物の返品は減るどころか、増えるばかりである。

あくまでも私見だが、AIによる売上予測は「売れる本」もさることながら、「絶対に売れない本」も正確に判定できるのでは、と思う。幾度となく見てきた、取次の仕入窓口での配本部数交渉の攻防戦を思い出すと、売れない本を排除するという方法は、返品率を抑制させる有効な手立てなのである。また、返品問題をいえば、「買い切り」や「返品数の制限」を設けるなど、根本的な制度見直しがなければ、改善するはずもない(そう簡単にはいかないが)。

しかし、巨額の開発費を投じたであろうAIが、未来予測をしてくれるのである。私のような単純な考えを凌駕する素晴らしい妙案を、次々と提供してくれるのであろう。最も大事なことは、その本を必要としている人に確実に届けること。出版物を通じての知のサイクルを途切れさせず、多様な言論や思考を広げるべく、新たな試みへの期待は大きい。

(出版研究室・佐倉エリカ/『出版労連』2021年9月1日‐1590号より)