「事実」が語る「情報の重さ」(出版研究室から [23])

4年ほど前になるが、児童文学者の山中恒さんのご自宅の書庫で、戦前から戦中、戦後に渡る貴重な書籍や、一目で歴史的に価値があると分かる手書きの文書など、膨大な資料を見せていただいたことがある。後に、作家で評論家の保阪正康さんにお会いした時にその話をしたところ、保阪さんも山中さんの資料の価値をご存じで、そのまま将来に残したいという想いを共有した。

今、私の手元には『アジア・太平洋戦争史(上)(下)』(岩波現代文庫)、『新聞は戦争を美化せよ』(小学館)という山中さんの著書がある。読み終えて数年経つが、思い立ってページを開くたびに、これらの著作の背景にある膨大な資料を目の当たりにしたときの驚きがよみがえり、フェイクでもフィクションでもない「事実」が語る「情報の重さ」を、改めて噛みしめている。

明治維新後、1869年出版条例、1875年讒謗律・新聞紙条例、1893年出版法と、新聞や出版による言論を取り締まる法律が次々と作られ、1894年に日清戦争に突入した。その後も軍機保護法、軍用資源秘密保護法など、言論・表現を規制する法律が作られ続け、1941年治安維持法全面改定、アジア・太平洋戦争への突入と続いた。

そして現政権下、2013年特定秘密保護法、2015年安保法制(戦争法)、2017年改正組織犯罪処罰法(共謀罪法)などが強行採決され、言論・表現の自由の危機が叫ばれた。だが、2019年の参議院議員選挙の結果、現政権が忌避されることはなく、危機はまだ継続している。

しかしそうであっても、「事実」に基づく情報の発信を後退させてはならない。なぜなら私たち出版労働者は、戦争に突入した歴史を知っているのだから。

(出版研究室主任研究員・前田能成/『出版労連』2019年8月1日‐1565号より)