雪だるま式に増える教科書編集の仕事(2)

今回は、検定の際の作業=文書がどのように増えていったかを見てみましょう。
教科書の検定規則は、定期的に見直し・改訂がなされてきましたが、大きな変更があったのは1989年の改訂です。ここで家永教科書裁判*1を通じて注目されてきた検定制度への批判に対応するために幾つかの「改正」が行われました。その核心は、それまで「申請図書」(=検定提出本、いわゆる白表紙本)に検定意見をつけるため最初にだけ置かれていた検定審議会を、調整内容を審議するため検定の最後にも置くことと、その2回目の審議会の審議資料として「修正表」が制度として新たに設けられたことです。それまでは教科書調査官との調整用に「内閲本」という修正原本1冊を作成すればよかったのが、検定提出時の「原文」と調整後の「修正文」を一覧にした、時には100ページ以上にもわたる(過去には最大でA3判で数百ページになるものもありました)という正誤表のようなもの(「修正表」)を作成しなければならなくなったのです。さらにその後、それまで検定の調整段階で認められてきた誤記等内容に関わらない点についての「自発訂正」も廃止になり、誤記等の単純な修正も、検定合格と見本(=採択用見本本)提出までの1か月あまりの間に「訂正申請」という修正手続きをすることが新たに必要になりました。
しかしこれらの作業以外に21世紀になって増えてきているのが、検定提出時に検定申請書・「申請図書」・「著作編修関係者名簿」と共に提出*2 しなければならない「添付書類」に関する作業です。この書類がどれだけあるかというと、現在の制度では1)編修趣意書(全ての教科)、2)学年別使用漢字一覧表(小学校と中学国語科)、3)常用漢字以外の使用漢字一覧表(中学・高校)、4)音訓一覧表(中学・高校の国語科)、5)出典一覧表(全て)、6)用語・記号リスト(算数・数学科)、7)生物重要用語リスト(生物)、8)発音記号の表記に関する方針(外国語科等、以下9・10・11も)、9)外国語語彙リスト、10)外国語スクリプト、11)外国語音声、12)解答一覧表(必要な教科のみ)、13)コンピュータプログラム等関連ファイル(小学校と中学・高校の情報関連)、14)ウエッブサイトのアドレスの掲載箇所一覧表(全て)、15) ウエッブサイトのアドレスの掲載箇所一覧表~外国語・英語音声に係るもの~(外国語科等)のようになっています。このうち6)7)8)11)13)14)15)は1989年時点ではなかったものです。外国語教育の変化や教育のICT化などによって書類が増えてきたのがわかります。
さらに同じ書類でも内容(作業量)が大幅に増えたものがあります。5)出典一覧表は、出典をめぐるトラブルを契機に21世紀に入る頃に(文科省が確認できるとは到底思えませんが)フォトサービスの写真と写真番号まで記載するようになりました。そして教育基本法「改正」によって大きく変わったのが、1)の編修趣意書です。2014年より教育基本法の教育目標(伝統と文化を尊重し~我が国と郷土を愛する等)との対照表を入れることになったことはご存じの方も多いと思います。また学習指導要領外の「発展的な学習内容」を掲載した箇所についての表も加えられました。
この傾向が続けば、「デジタル教科書」が義務化される次回改訂期にはそれに伴う書類・電子データの提出がさらに追加され、事務作業が膨大なものになることが懸念されます。

*1 三省堂高校日本史の著者家永三郎氏が、自分の執筆した教科書への検定意見の内容や不合格処分を不服として国を提訴、1965年から1997年まで三次にわたり検定制度の違憲・違法性をめぐり争われた裁判。その中で、検定意見に基づく修正調整が、文部省(当時)の教科書調査官と教科書編集者・著者との「密室」で行われ、内容が決まることが社会的に問題となった。
*2 これ以外に、15年ほど前から「申請図書」の「ミスの防止」を担保するためとして、「申請図書」の校正に関与した人物(外部プロダクションも)・時間・確認方法を記した書類も提出することになった。

 

板垣尚英(元出版労連教科書共闘会議事務局長・現実教出版労働組合)

★出版研究室Web編集部から
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(担当・平川)