言葉と文字を考える(上)(出版研究室から[5])

出版研究室が産業のあり方だけでなく、表現活動の視点からも政治や社会の動向に注目していく必要があると考えていることは、既にこの欄で述べている。そこで、表現活動の視点から、言葉と文字について考えてみたい。

私たちにとって言葉はとても大事なものだ。言葉によって自分の意思を他人に伝えることができる。しかし、言葉は発したとたんに消えてしまうので、何らかの手段によって記録しておかないと、後に検証する(跡付ける)ことができない。この記録をする手段として私たちは文字を活用している。文字を使って文章に表し、それをまとめて文書を作成する。私たちの日常にとっては当たり前のことだが、それが成されなかったことにより、時として大きな問題が引き起こされる。

2017年、PKO日報問題、森友学園問題、加計学園問題が、国会で大きく取り上げられた。これらの問題によって、行政による公文書管理のあり方が世間でも注目されるようになった。その結果、政府の主導で「行政文書の管理に関するガイドライン」の一部改正が行われることになった。

このガイドラインの改正に際しては、2017年11月下旬から12月上旬にかけて意見募集(パブリックコメント)が内閣府大臣官房公文書管理課名で行われた。提出された意見の総数は118件だったが、それらの意見によって修正が行われた部分もあった。たとえば、行政機関間の打ち合わせ時の記録について相手方に確認を求める調整をしなければならないという改正案に対し、「跡付けや検証ができるようにする」ことを前提とするという留意事項が追加されたことが上げられる。原案よりは多少改善されたが、加計問題で内閣府と文科省の協議の記録が文科省側だけにしか残っていなかったことが国会で問題にされたことを考えると、ガイドラインの改正は小手先の対応でしかない。したがって、12月5日に野党6会派が衆議院に共同提案した公文書管理法改正案の、今国会での審議が重要になる。ここからPKO日報問題、森・加計問題追及の第2幕が始まることを期待したい。

(次号に続く/出版研究室・前田能成)〔『出版労連』1547号/201821日より〕