第一学習社「現代の国語」検定問題を考える(1)

昨年12月8日、文科省は2022年度用教科書採択結果を公表し、各メディアが報じた。各社が大きく扱ったのが、文学作品を扱わないことになっていたはずの高校国語の新科目「現代の国語」で、文学作品を載せた第一学習社の教科書(4種中1種)が採択1位になったことだった。同日付毎日新聞(ウェブ版)は次のように報じている。

「第一学習社が躍進した採択結果に、他の教科書会社は戸惑いを隠さない。現場のニーズがあることを知りながら、多くの社が小説の掲載を見送ったのは、文科省が『「現代の国語」で小説を扱う余地はない』と説明してきたからだ。その意を酌んだために損をする格好となり、『文科省への信頼は失われた』といった厳しい声が上がる」

12月10日の文科大臣定例記者会見でこの件を問われた末松文科大臣は「現代の国語に小説が盛り込まれるということにつきましては、実は、本来想定していなかった」、当該教科書が採択トップになったことについては「現場においては、なかなかまだ、学習指導要領の趣旨ということについて十分浸透していない」などと、文科省の責任を認めない無責任な釈明に終始した。

ことの発端は、検定提出前に行われた教科書発行者を対象とした新学習指導要領説明会に遡る。そこで同省は、「文学的な文章」(文学作品のこと)は「言語文化」で扱うようにと述べていたという。ところが検定結果が公表されると文学作品を掲載した教科書が合格し、そのうえその教科書が採択トップとなったとあっては、他社が怒るのももっともだろう。毎日新聞12月27日付記事によれば、文科省はこの問題を受けて11月にオンラインで説明会を開いたが、検定が間違っていたと認めないのかと詰め寄る編集者もいたという。

経過に照らせば、各社が文学作品の掲載を見送ったのは当然だ。報道によれば、文学作品を掲載した第一学習社は、事前に文科省に文学作品を載せても大丈夫かと問い合わせ、大丈夫だという趣旨の回答を受けたので載せたという。しかし検定結果が明らかになった後も、文科省は自らの誤りを認めず、文学作品が掲載されていることを宣伝した第一学習社に対し「学習指導要領をふまえていないかのように宣伝した」と責める始末である。

以上から浮かび上がってくるのは、文科省によるダブルスタンダードというべき検定の運営であり、またその明白な誤りを決して認めない文科省の独善的な体質である。だが、問題をこれらに求めるだけでは、事の本質に迫ることはできないのではないか。「文学的な文章」を扱わないとした新学習指導要領そのものの誤りと教育現場の要求との矛盾、そしてその間での教科書のあり方・役割を言論・表現・出版の自由という観点から問い直す必要があると思うのである。

(吉田典裕/出版労連・教科書対策部事務局長)