山麓の小さな村 図書館が育む文化と司書の役割(3―②)

出版研究室(原村分室)橘田源二

 原村の図書館に入ると東京の図書館とは少し雰囲気が違う。東京では受験勉強をしている学生と新聞や雑誌を熱心に読んでいる高齢者の姿が目につく。しかし、原村図書館は放課後の小中学生、未就学児童の親子、近隣の大学に通っているらしい学生、サラリーマン、農作業の合間に軽トラックで来る人老若男女実に多様である。原村図書館の共育ての精神は開設から四半世紀を経て全住民に根付いている。

原村図書館の雑誌棚

原村図書館は5万冊規模の図書館だが、現在約96千部の資料を蔵書している。他にDVDCDなどのAV資料もある。雑誌は週刊誌、月刊誌、各分野の定期刊行物、新聞もそろえている。特に児童書を充実させていて、さまざまな企画を案内している。今年の4月に原村教育委員会が第3次原村子ども読書活動推進計画を発表して、乳児から高校生までを対象に家庭、地域図書館そして教育機関が総合的に子どもの読書活動を支えるみをしている。第3日曜日は家庭で読書の日に制定している。

 

原村図書館の受付 入館者も思わずびっくり

また開設以来、図書館のとりくみでこどもたちの読書活動が続いている。小さな村で保育園、小中校が隣接している立地を生かして、こどもたちが集まる場になっている。そこでは親子の読み聞かせがあり、ボランティアで読書会を企画して本を楽しんでいる。現在、地域ボランティアによるお話会や図書館司書と子ども図書館ボランティアとの共同によるお話会が定着している。地域の図書館が継続して学校や子どもたちと連携して読書活動を推進していくことは、設立時にめざした文化の香り高い村の大きな財産になっている。

 しかし、小さな村の図書館ゆえに運営の悩みはある。閲覧のスペースが狭いという。特に今年は、コロナ対策で学習室などの利用を縮小している。滞在の時間も制限ている。図書購入予算、人件費も厳しいのはいずこも同じであるが、厳しいなかで苦心をされている。諏訪市や富士見町、茅野市など周辺の諏訪地域6市町村との相互協力で公共図書館の情報ネットワークをつくり読者へのサービスをしている。原村図書館にない本や資料は、このネットワークで探したり、借りることができる。原村の住民や小中学校の児童、生徒が読みたい本がない場合は6市町村から国会図書館での検索や相互貸借も可能になっている。原村に住むすべての住民、児童、生徒の読書環境を改善するために、全国に先駆けて図書館のネットワーク化を進めてきた実績がある。

電子図書の整備状況を聞いてみた。図書館長も同席してくださって、村としての考え方を説明された。コロナ問題もあり問い合わせもあるというが、現状では導入は考えていないという。理由は明快で、図書館は原村のほぼ中心にあり、小さな村内のどこからでも車で15分もあれば利用できる。電子図書の運用にかかるメンテナンスには莫大な経費が掛かり、予算の使い方として電子書籍の必要性は低いとの判断である。現に図書館では司書が利用者の個別の相談にも対応できるという。村の実情と住民の読書環境と図書館、さらに司書の役割がよく考えられている。選書も職員が住民の読書環境を把握しながら選書をしているとのこと苦労や負担はあっても図書館への納本で高いシェアのT社任せにしないことで折々の企画に原村の特色をいかせるという。(次回へ続く)