危険水域をどう脱するか(出版研究室から[27])

出版関連産業は新たな危険水域に?――出版社の倒産が続いた今年、全国紙が業界の苦境を報じた。出版流通では公取委の関与で大手二社の協業化=合理化が進んでいる。書店が1軒もない地方都市が増えている。帝国データバンクの調査で10年前比の出版物の売上げは15%減、取次は25%減、書店は12%減。一方でアマゾンは最高時から半減(1兆2千億)した出版売上げの4割を占めたと推定されている。

行政機関の情報操作、表現規制が目に余る。あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」が脅迫で中止され、文化庁は補助金を不交付とした。企画展は再開したが、同様の規制は映画、講演会などに広がっている。背景に日韓の歴史認識の違いが指摘されている。

週刊誌や月刊誌での差別的な表現が業界内外で話題になった。TVは皇室やラグビー、オリンピックなどに時間を割く一方、社会生活に有用な情報などの扱いは少ない。かんぽ生命不正とNHKへの圧力、「桜を見る会」の追及は……忖度の後ろに安倍内閣の姿が見え隠れしている。メディアは何を伝えるのか、その在り方と責任が問われている。

出版労連・MICは19秋年闘で「表現の自由を取り戻す文科省前行動」に取り組んだ。出版研究室は流通問題やアダルト本とコンビニ規制の影響などを調査し、出版研究集会で委嘱された分科会では、業界構造の変化とアマゾンの動向から再販制度を出版と文化の視点で学ぶ場を企画した。

産業別労働組合の役割が問われている。出版労連が設置した研究室の活動を来年も旺盛にしていきたい。

(出版研究室・橘田源二/『出版労連』2019年12月1日‐1569号より)