分断に臆さず 思考止めず(出版研究室から[26])

「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』」が一旦中止に追い込まれた問題は、不自由だとすら言えない日本の言論情況を露呈しただけではすまなかった。MICと出版労連が早い段階で声明を発して抗議の意思表示をしたほか、芸術家や表現者による抗議も相次いだが、その後9月末に再開にこぎつけた同展に対する文化庁の助成金不交付、名古屋市長は展示に抗議の座り込み、ヘイト系団体による「あいちトリカエナハーレ2019『表現の自由展』」開催へと現在進行形で続いている。「美術手帖」のサイトが一連の経過をまとめていてとてもわかりやすい。社会は憎悪扇動への距離のとり方で真っ二つになり、津田大介芸術監督が言うように同展中止のインパクトは「検閲というより、文化・芸術に対するテロ」に値した。

今回は言論・表現の自由の相克で、たえず逆張りを繰り返す東京や大阪ではなく、愛知という場所が耳目を集めただけでなく、知事と市長が真っ向から激突して譲らない。津田監督とタッグを組む大村知事を大いに支援したいところだ。

声明を発しても署名をしても、一向に事態を打開できない昨今の言論情況は、現代の悪夢を見ているようでもある。深刻なのは、その悪夢からしばらくは覚めそうもないということだ。SNSを通じて、わかりやすい短文でスパッと世相を断じる風潮が蔓延する中、物事の本質はああでもないこうでもないと、意外とどっちつかずであったりもする。

12月4日には出版情報関連ユニオン主催のシンポジウムが開催され、あいトレ実行委員でもある岩崎貞明MIC事務局長も登壇する。これからの、社会の分断が極限まで進行していく先には何があるのか、出版に働く者として考えるべきはその点であって、分断に臆して思考停止に陥ることではないと思う。

(出版研究室担当中執・樋口聡/『出版労連』2019年11月1日‐1568号より)