出版研究室が変化対応の一助に(出版研究室から[52])

前回、出版研究室のとりくみの課題を確認した。その一つに、出版労連の産業課題へのとりくみを直接的にサポートしていくことがある。「産業課題」と一口に言っても、それは、経済活動に根差した実体としての産業状況から、言論・出版・表現の自由に依拠した情報発信の状況まで、幅広い範囲に存在する。引き続き足元を見据えて、できることから進めていきたい。

さて、昨年は出版産業界でもDXが話題となった。そして「出版DX」は、企業規模による時代の変遷への対応の格差を顕著にした。その格差は、出版物を構成するコンテンツのデジタル化の速度と、そのデジタル化されたコンテンツの利活用の両面で見られた。

出版労連は毎年「出版研究集会」を開催している。昨年は12月15日に「小規模出版社でも☆彡電子書籍を作れる・売れる」というテーマで、小規模版元を対象とした電子書籍の出版・販売のための実践講座的な分科会を実施した。参加者は、会場とオンライン、後日のアーカイブ視聴希望者を合わせ80名を超えた。分科会の趣旨は、前述の「コンテンツのデジタル化」と「デジタルコンテンツの利活用」から発したものであったが、最近の日本社会のデジタル化の進展が、著作権の在り方などを通して出版産業に新たな影響を及ぼしつつあることも視野に入れた。

分科会後、講師のもとには電子書籍化の相談が入り始めたようである。出版産業の活性化のためにも、個性的な本を出版する小規模版元には、時代の変化に対応して頑張ってもらいたいと思う。出版研究室のささやかなとりくみがその一助になることを願って、今年も活動していきたい。

(出版研究室主任研究員・前田能成/『出版労連』2022年1月1日‐1594号より)