『月に3冊、読んでみる?』(酒井順子/東京新聞)

 気のせいだろうか。秋ゆえか…。本に関する書籍、雑誌・ムックあるいは読書に関する新聞やネットの記事が今年は多い気がする。コロナ禍による“巣ごもり需要”を機に読書回帰の流れをつくろうという誰かたちの考えなのか。天邪鬼の筆者としては、ややうさん臭さを感じなくもない。しかし、悪いことではないなと気持ちを切り替えて書店でアレコレ手に取り買い込む今日この頃である。

酒井順子さん著の『月に3冊、読んでみる?』(東京新聞)を紹介しよう。この本は、酒井さんが東京新聞の「3冊の本棚」で毎月一回紹介してきた279冊の本の中から選ばれた〝酒井お勧め本〟が詰まっている優れものだ。最大の特徴は新刊だけではなく既刊本、それも古い本も取り上げるところである。例えば『坊っちゃん』。『堕落論』『吉里吉里人』etc.作家名を記すまでもない名著が顔を出す。珍しくはないがマンガもある。

酒井さんは「心の中を覗かれるような恥ずかしさに身悶えしつつも、ありのままの読書嗜好を、皆さまにお届けすることにいたしましょう」と潔い。「本は本を連れてきてくれます。本に手を引かれて次の本へ、という快感は、読書の大きな醍醐味のひとつ」と言い切る。確かにそうだ。筆者は青春時代に坂口安吾を読み漁った思い出がある。それは五木寛之の『風に吹かれて』が安吾を連れてきてくれたのだった。

さて『月に3冊、読んでみる?』に戻ろう。テーマは「1生きる」「2女」「3男」「4性」「5家・家族」「6作家」「7趣味・好み」「8旅・鉄道」「9学校・スポーツ」「10社会・時代・思想」と幅広い。

「2女」「3男」「4性」で取り上げている19冊の紹介文と酒井さんの感想は、ややもすると今どきの風潮とは少し違い「古くね?」と言われるかも、と思ってしまう。通底しているのは、肩の力を抜いて本と作者に向き合っているところか。ありがちな「解釈」に陥っていない素直さに驚かされる。「2女」のひとつ、花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた』では「女性が権力という目新しい道具をどう扱うかが真に問われるのは、これからなのでしょう」と読者に考えさせる時間を与える投げかけで結んでいる。

「3男」からも一つあげてみよう。「〝カッコいい〟生き方指南」で伊丹十三、山口瞳、池波正太郎の3冊を取り上げている。微妙だ…。池波正太郎の『男の作法』を買って読んでみた。微妙だ…。紹介者の酒井さんの、時代の風潮に掉さすわけでなく、抗うわけでもなく淡々と「『カッコいい』本」として本棚に並べたストレートさに脱帽である。

(積読本三郎)