『公共図書館を育てる』(永田治樹/青弓社)

新年早々、図書館で目に留まった本のタイトルが『公共図書館を育てる』(永田治樹・著/青弓社)である。八ヶ岳の麓の小さな村の図書館の新刊コーナーに紹介されていた。村に本屋さんは1軒もないので図書館に頻繁に通うことになる。図書館を利用するだけでなく、「育てる」というところに興味を持った。著者は筑波大学の名誉教授(図書館情報学)、未来の図書館研究所所長である。

本書は220pほど。まえがき(7p)、1章~7章、資料とあとがきという構成だが、まえがきから一気に読み通してしまった。読後には、タイトルの「育てる」を「利用」の延長のように考えていたことが安易で恥ずかしく思えてきた。当初、書評で本欄の読者に紹介しようと考えていたが、短文で紹介は無理、ぜひ資料も含めて丸ごと読むことをお勧めしたい。

それは筆者が出版関連の仕事をしてきたこと、そして今では死語になっている?「出版不況」のさまざまな事がらやデジタル化などの産業課題に多少なりとも関わってきたにもかかわらず、公共図書館の役割や機能に目をむけられなかった事実を突きつけられたからである。

出版不況やデジタル化は常に話題になり、出版物の売り上げは1996年をピークに下がっていることはよく知られているが、公共図書館との関係を論じたものには注意が払われていないような気がする。本書の冒頭で、日本の図書館は1970年代の高度成長以降、予算や利用者数が拡大してバブル崩壊後もさらに続き、2012年を境に下降してきたとある。この基本的な状況認識が欠けていたことを反省させられた。

筆者に限らず出版に関わる人たちは、総じて本や雑誌は個人で買うもの、しかも容易に入手できる大都市にいては、読書環境に図書館を利用する機会は少ないように思える。しかし、現実は公共図書館の利用者は幅広く、蔵書も多岐にわたる。膨大な出版物と読者を結び付ける場をどうするのか。これは出版産業に携わる人たちが常に考えていることである。

本書は公共図書館について外国の図書館との比較や豊富なデータの分析も加えて、未来の図書館の姿を考える必要性を指摘している。それは、私たちが<公共図書館は育てる>ものであり、これが出版産業の未来に通じることを示している

再度申し上げる。ぜひ本書を手に取って読んでいただきたい。

本の仙人