「法改正」によって危ぶまれる「表現の自由」=「立法事実」の重要性(上) 「朝日新聞5月8日付/社説‐侮辱罪厳罰化 慎重な審議を求める」、「東京新聞5月11日付/『侮辱罪』厳罰化へ刑法改正案審議~言論の自由 どう担保」、「信濃毎日新聞5月12日付/社説‐侮辱罪の厳罰化 自由な言論 圧迫する恐れ」ほか

政府が提案した「侮辱罪」の法定刑引き上げを意図した刑法「改正」案が国会で審議されているが、法案の内容に「言論・出版・表現の自由」を侵害する可能性のあることが指摘され、出版界からも批判の声が上がっている。

たとえば日本出版社協議会(出版協)は、警察や検察の恣意的な侮辱罪の適用による表現の自由に対する侵害や、厳罰化による長期間にわたる身体拘束の可能性、近年増加しているスラップ訴訟の濫用などを問題点として上げている。また、公人に対する名誉棄損罪にある特例規定がないことも、表現の自由を脅かすものと指摘している。

「侮辱罪」の厳罰化は、インターネット上の誹謗中傷によって自らの命を絶つほどに追い詰められた被害者の存在を重視し、そのような被害を抑止するための法改正を求める声を受けたものだというのが、社会の共通理解だろう。しかし、そのような共通理解の下で行われる法改正なのに、なぜ批判の声が上がるのだろうか。その批判の対象である「言論・出版・表現の自由」に焦点を当てて、法案の内容を簡単に押さえておこうと思う。

まず一つめとして、罰則が「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と引き上げられていることがある。軽犯罪に対する刑罰と言われる「拘留又は科料」が「懲役若しくは禁錮」となると、「逮捕・勾留」の可能性が高くなる。問題となっているのは、インターネット上の、とりわけ匿名での誹謗中傷である。そのような限定された行為に絞るのではなく、これまで軽度の犯罪として扱われてきた「侮辱」行為を広くとらえて厳罰化しようとしていることが、萎縮を招き、表現活動を規制し、表現の自由を脅かすものだというのが、批判の理由である。

なお、今回の「刑法改正」では、「懲役」と「禁錮」の2つの刑を合わせて「拘禁刑」にするという、1907年の法律公布以来の大きな変更が提案されており、それに伴う条文の変更が数多く示されているのだが、ここでは「侮辱罪」に絞って述べていくことにする。また「侮辱罪」についても、現行法の罰則を上記のように引き上げた後で、「懲役若しくは禁錮」の「拘禁刑」への変更が示されている。

二つめは、「懲役若しくは禁錮」の罰則が科せられている「名誉棄損罪」には、「公共の利害に関する場合の特例」が条文で明示されているのに、罰則が引き上げられた「侮辱罪」には、そのような特例がない点である。前述の出版協の指摘にある「公人に対する名誉棄損罪にある特例規定」は、この「公共の利害に関する場合の特例」を指していると解釈できる。

つまり、「侮辱罪」で訴えられたとしても、それが「公共の利害に関する場合の特例」に合致すれば、罪には問われない。新聞や放送、インターネット、出版などのメディアにとっては、とても重要な問題と言える。(つづく)

 

この「侮辱罪」に関わる法改正については、5月9日に、「共謀罪NO!実行委員会」と「「秘密保護法」廃止へ!実行委員会」が連名で「表現の自由を侵害する 侮辱罪の法定刑引き上げに反対します」と題した声明を発表している。この両実行委員会には出版労連やMICも関わっているので、そちらの声明にも目を通していただきたい。

※この「声明」は下記のサイトでご覧いただけます。

共謀罪NO!実行委員会 https://www.kyobozaino.com/

「秘密保護法」廃止へ!実行委員会 https://www.himituho.com/